寂しい母

寂しい母

数日前に愛犬ジョンを亡くして、俺は母のことが心配になって一年ぶりに帰省した。
まだ50前というのに、落ち込んで一気に老けこんでしまったように母さん。
母はジョンがうちへ来てからというもの、家族の誰よりも一番愛情をかけていた。
ジョンの散歩や躾を担当していた親父が亡くなってからは、母がひとりでジョンの世話をしていた。



俺が母を心配したのは、母とジョンの関係を知っているからだった。
内気でひとりで家にこもりがちな母を心配して親父が子犬のジョンを貰ってきて以来、母で自分の子供以上にジョンを溺愛していた。
ジョンがいるからとあれほど好きだった旅行にさえ行かなくなっていた。
そして大学生のとき。
当時、親父が入院中で実家には母しかいないはずだった。

特に連絡もせず帰省して、家へ入ると、女の喘ぎ声が聞こえた。
まさか母が浮気?
俺は動揺しながらも足音を殺して、リビングへ近づいた。

母とジョンが犬のように交尾していた。

俺から見せたのは四つ這いになった母にジョンが覆いかぶさって腰を振っている姿で、母とジョンが繋がっている部分を見たわけじゃない。
しかし、母は下半身に何も身につけておらずジョンの動きに合わせて、
「あ・・・いい・・・すごくいいの、ジョン」
と何度もジョンの名前を呼んで喘いでいた。

当時の俺はショックのあまりそのまま立ち去り、実家へも1年以上帰らなかった。
次に帰ったのは入院していた親父が亡くなったときだった。
泣いている母がどこか白々しく見えたのはジョンの影があったからだ。
俺は父の葬儀が終わったあと、母のタンスや引き出しを探ってみた。
特に派手な下着があるわけではなく、他の男を浮気しているような感じもなかった。
ただ一途にジョンに愛情を注いでいたんだと思った。

そう思うと、自分でも獣姦に興味を保つようになっていくつものAVやネットでの画像を見たが、どれもあの日の母のような感じではなかったように見えた。
俺はもう一度母とジョンの交わりを見たいと思った。

また母には連絡せずに帰省した。
親父の葬儀からまだ3週間ほどしか立っていなかった。

母に気づかれないように裏からまわってリビングを覗いたが、母もジョンもいなかったので散歩かと思った。
しかし、かすかに母の鼻歌が聞こえた。
風呂窓からだった。どうやらジョンをシャンプーしてるようだった。
しかし風呂の窓は覗くには高すぎたので、玄関の鍵を開けて侵入すると、すぐそばにある脱衣所に近寄った。
そこからは風呂の中の様子は伺えなかったが、母の鼻歌とシャワーの音がした。
ジョンが突然吠えた。
「どうしたのー?ジョン」
母の声が聞こえて、浴室のドアが開いた。俺は慌てて身を隠した。
「ジョン、痛かった?ごめんね」と母の謝る声が聞こえたあと、静かになった。
何が行われているの気になって覗くと、開いた浴室のドアから見える姿は母がジョンのペニスを手で握って咥えてる姿だった。
びしょ濡れのTシャツ一枚の母はジョンの尻を顔を近づけて、尻尾のように後ろに回した犬の真っ赤なペニスを口に含んでいた。
AVで犬のペニスがグロいのは知っていたが、母はそれを美味しそうに吸っていた。
そして、母は顔をこっちへ向けて伏せると、ジョンが母に乗っかってきた。
あのときの母さんの顔は一生忘れることはないと思う。
残念ながら入っているところを見れなかったけど、母はジョンのペニスを身体に受け入れていた。
ジョンの一突きごとに、ん、ん、と声を漏らし、そのうち完全に突っ伏してジョンに征服されているように見えた。
母とジョンの交尾は長く、母は「ダメ!!ジョン、ストップ!」とジョンに待ったをかけたが、ジョンは止まらず
あああ!とかひぃ!!とか言葉にならない悲鳴で母は何度も喘いでいた。

ジョンが母から離れると、ぐったり寝そべった母の尻に鼻をうずめているように見えた。
俺も母の顔と声に興奮して、自分でペニスを扱いて、廊下に射精していた。

ジョンが気づいたのか、また吠えたので、俺は慌てて玄関へ飛び降り
「ただいま!」と今帰ってきたかのように声を出した。

母もびっくりしたんだと思う。
脱衣場からびしょ濡れのまま顔を出して、
「どうしたの?突然」と話しかけてきた。
毛の濡れたジョンが飛び出てきて俺に吠えた。ペニスがまだ大きく剥き出しになっていた。
「ジョンをシャンプーしてたの。びしょ濡れになっちゃったわ」
脱衣所入り口の床には俺の出した精液が飛び散っていたので、それを隠そうとして近寄ると、
「今、裸だから」と脱衣所のドアを閉めた。
そしてシャワーの音が聞こえてきた。
母もきっと膣に注がれた犬の精液を洗い流していたんだと思う。
追い出されたジョンは脱衣場のドアをガリガリを引っ掻いていた。

ここまでは、以前どこかへ投稿したと思う。
母とジョンとの性交を見たのはこれだけだったが、もう嫌悪感はなかったし、俺も就職して、実家からはますます遠くなったが、電話すると母は元気そうでジョンがきっと支えになっているんだろうと思っていた。

だから、ジョンの死は親父の死以上に母が心配だった。
俺は有給をとって無理やり連れ出し、千葉の温泉施設へ出かけた。

母も少しは気晴らしになったのか、乗り気じゃなかったのにけっこう笑うようになっていた。
しかし、その夜は寝付けなかった。
ホテルのエアコンが暑くて火照った身体には辛く、それに隣に母がいるとどうしてもジョンとのことを思い出し、意識してしまった。
俺は自分のベッドを出ると、ビールで身体を冷ましながらじっと母を見ていた。
母も寝苦しいみたいで、何度も寝返りを打っていた。

俺は母のベッドに入って後ろからそっと抱きしめた。
母はびくっと身体を固くしたけど、浴衣の裾をめくって母のふとももを滑々と擦った。
太ももを遡って、パンティからはみ出た陰毛に触れた。
パンティに指をかけて直接触れるとシャリシャリとした茂みが指に絡みついた。
指で茂みの中の小さい芽を見つけると、母は俺の手首をギュッと握った。
「ケンちゃん、ダメ、そういうの」
母は何度もそういったが、自分の大きくなっているペニスをお尻のあたりに擦りつけた。

すごく長い時間そうしていた。
母と何度も押し問答しながらも、指で母の小さな芽を弄ることを止めなかった。
周囲がじんわり湿ってきて、すっかり固くなった芽もヌルヌルしてきた。
母がモジモジして、ため息を何度もついた。
湿った陰毛の先へ指を伸ばすと、茂みが急になくなって柔らかい肉ビラに触れた。
肉ビラの中心に指を奥まで沈めると、母がびくっと身体を強ばらせた。
「母さんのここ、濡れてる」
指で柔らかい襞をゆっくり出し入れした。

「ケンちゃん、怖い」
母が顔を手を覆っていた。
「どうして?なんで、こんなことするの?」母は今にも泣き出しそうだった。
すごく迷った。母を傷つけるかもしれない。
だけど、俺はあの日みた母の顔をまた見たかった。

「母さんがジョンとセックスしてるとこ、俺見たんだ」

このときの母は間接照明ではっきりみえなかったけど、きっと顔色が真っ青だったに違いない。
母はパニックになって、死ぬと言い出した。
「こんなの知られたら、生きていけない」と。
暴れる母を宥めて、泣き止むのを待った。
母の浴衣は乱れて、パンティ一枚の姿になっていたが、母の背中や脇腹を見て俺は息を呑んだ。
ひっかきキズがいくつも母の背中に走っていた。
まだ新しいキズは、母が最近までジョンと性交していた痕だった。

痛っと声をあげた。母の白い肌にかなり生々しいキズが残っていた。
そこに触れると
「痛っ・・・ケンちゃん、こんな母親のこと軽蔑してるよね?」
母は何度も俺に聞いて、俺はその都度を首を振った。
母のキズをひとつひとつ点検しながら、どうしてジョンと交尾するようになったのか聞いた。

「私ね、ジョンのお嫁さん探したんだけど、ミックスだからって断られて」
母はポツポツと語った。
「ジョンがしたいって言うの、私に一生懸命しがみついて」
たしかにジョンはさかってよく母にしがみついていた。
俺たちは笑ってみていたんだけど、母は深刻だった。
「だから最初は手でおちんちんを触ってあげてね」
「口でしたのはいつから?」と俺が聞くと、
「お口したのはずっと後。シャンプーで綺麗にしてからね」と母は言った。
「シャンプーのときに手でしてあげたんだけどね。ジョンまだまだ元気だったし、私も裸でこうやって後ろ向いてたら」
と母がベッドで膝をついて後ろを向いた。
「ジョンがこうやってしがみついて来て。一生懸命お尻の穴にオチンチン入れようとしてね」
母が語るジョンの思い出で俺は震えるほど興奮していた。
「ジョンが入れやすいようにしてあげたの。私のこと、お嫁さんにしてって」
ジョンに身体を許したことを告白すると、母の身体もガタガタと震えていた。
ジョンのペニスを受け入れてるときのあの顔だった。

俺は母の肩に手を置くと、母をゆっくりと四つ這いにさせた。
「ジョンが入れやすいように、どうしたの?」
母は素直に身体を伏せると、尻を高く持ち上げた。
俺は母の尻からパンティを剥くように下げて、割れ目を拡げると、母のアナルがヒクヒクしていた。
指を触れると、母が身を捩った。
「母さんのこっちにジョン入れようとしたの?」と聞いた。
「そっちには最初は入らなかったけど・・・」
俺は母に何も言わずに、指を押し込むと意外なほど簡単に人差し指が入った。
「あっ、ん、ジョンは間違ってよくそっちに入れちゃうから」
ジョンによって開発済みのアナルに指を出し入れしていると、
「犬とセックスしてるなんて、いつかやめなきゃって思ってたのに」と母が嘆いた。

母のお尻を掴むと秘部にペニスを押し付けた。
これまで付き合った女とは、バックだと位置が合わなくて、あまりやったことなかったが、犬と交尾をしていた母だけあって簡単に先っぽが入った。
「ああ、ケンちゃんが入ってる」と母が声を絞りだすように言う。
腰を入れると、ヌルンとあっけなく母のヴァギナに俺のペニスが入り込んだ。
母の中は誰よりも熱く、柔らかかった。
「ケンちゃん、お母さんのこと許して」
パンパンと母の尻を打つようにピストンしてると、母が何度も俺に懺悔するように謝った。
まだ余裕があったが、
「母さんの中に出すよ」と言うと、
「お願い危ない日なの、外にして」と母が言う。
「俺がジョンのかわりになってやるから」
「ああぁ、ホントにダメなの。どうしよう」

そして、母のヴァギナに射精した。
母も諦めたのか、俺の精子を残らず受け止めていた。
その後も母と交わり、
「ああ、まだ出したぁ。ケンちゃんの子供出来ちゃうよ。もう私をお嫁さんにして」
だって。

Last-resort


書いた……オーケー、text形式40kb前にブッタ切ったZE!
ただいま酒入ってるんで、明日にでも推敲して……
いや、推敲しないで今、うpった方がイーのか、な?
どうでしょう、ねぇ……ホント、たまにはテキーラ入れてよスーサン





Last-resort


 陽光降り注ぐ空の下、僕は何故かベンチに横たわって水を飲んでいる。
「ぬる……」
 上からは陽光、下からは熱砂。
 辺りは砂浜、景色は陽炎、目前には海と呼ぶらしい果てしない塩湖。
 そんな環境下、僕は水着姿で傾いたベンチに身体を預け、妙に細工の凝ったワイングラスに水を入れ、リゾート気分を感じて……いないわけで。
「マスター、風速の加減は如何でしょうか?」
 傍らの日陰から大団扇でそよ風を送ってくれているメイド姿の相棒が、此方の気分を察してくれたのか、会話を試みてくる。あー、しかしそっちは涼しそうだねぇ……ビーチパラソルってホント~に、一つしか残ってなかった?
「……アルファ、後どんくらい?」
 僕は心に膿まれた衝動を、同じく生まれた疲労感で相殺しながら、本日何度目かのタイムリミットを尋ねてしまう。
「はい、曖昧な表現を御要求と判断しました。ただちに記憶層と言語野から適切な表現を検索します・・・"もういやだ"」
 声帯模写、というヤツだったろうか。アルファはなぜかデジタルっぽい僕の声で口真似を披露してくれる。見れば団扇も足下に置き、両手の平を上に向けて、お手上げのポーズをとっていた。どうやら僕への対応については順調に学習しているらしい。無表情なのは意図したものか。
「……時間、お願い」
「残り02:29:21です、マスター」
「もういやだ……」

 さて、ここで状況説明をしておきたい。
 いや、その前に自己紹介だろうか。
 僕の名前は……今のところ決まっていない。
 前の街を離れるときに捨ててきたからだ。
 そう、僕は郷里の街に自分の墓を建て、過去の自分というヤツから逃げ出した。
 不幸だったから、というわけではない。
 昔の僕は分不相応なまでに恵まれていた。
 安定した生活に、安定してしまった仕事、そして集まりすぎた財産。
 僕は選んだ職業において、或る程度の成功を勝ち得てしまった。
 それは一生分の幸運を尽くしてまだ足りないほどの筋道を通った結果でもある。
 死を日常とする賞金稼ぎを生業として、およそ在り得ないくらいの結果。
 それは僕という取るに足りない存在にとって、本当に身分違いの結果。
 だから僕は怖くなった。僕は幸せの先を考えてしまった。
 たから僕は勘違いした。僕は先の先を求めた。
 贅沢な話だと思う。罰当たりな話だと思う。
 けれど僕は見てみたいとも思った。
 自分が世界だと思っていた、その先を。
 ………。
 と、いうことで僕は今、郷里を含む大地を取り囲んでいた山脈の外にいる。
 こんな僕と同行する羽目になった相棒、アルファと共に。
 現在地点は今もって不明。人工衛星のサポート範囲外なのか、BSコントローラは沈黙。脱出手段として使った古代戦艦"ティアマット"のデータベースも、地軸及び地形変化における現在までの流動推移について情報が決定的に不足しています、とかで移動距離ぐらいしか特定できなかった。
 ただ、今現在において滞在を余儀なくされている建築物その他の名称らしき表記は既に見つけている。丁度、モスキートがエンストしたところの道端に、看板らしきジャンクが突き刺さっていたからだ。
 "真熱海"……アルファがいうには『しんねつうみ』と読むらしい。それは零式に積んであったCユニットのOSなどで、改良前に少し見掛けた言語表記でもあった。ティアマットの地名検索を使えば詳細なども分かるかもしれない。
 そう、ティアマットの浮上地点まで戦車も無しに帰ることができれば、こんな苦労はしていなかった。

「マスター、営業時間の終了を確認しました。本日の数値は31ゴージャスとの事です」
 馴染んだ声に目を開ければ時刻は夕方だった。
 遠のいた意識が戻ってくるにつれ、程よく焼けた肌からムズ痒い刺激を感じ始める。ヒリヒリとヒリヒリと。
「お疲れ、アルファ……監視の方はどう?」
「外周ユニット群は配置・戦力共に変化無し。内部ユニット群は一部を除いて節電モードへと移行した模様。地下車庫における巡回ユニット群・セキリティ機能は引き続き沈黙中。状況は昨日までの周期と変わりありません」
「了解。んじゃまた始めます、か」
 まずは未だ熱保つベンチから身体を引き離し、全身に塗りたくった日焼け止めジェルを適当に手で落とす。
「マスター、失礼します」「……いきなりだね、アルファ」
 間を置かずに寄ってきたアルファの手には、不自然なまでに白いタオルが握られていた。僕はそのまま彼女に全身を拭いてもらう。
「マスター、ただいまの行為によって+2ゴージャスが追加されました」
「……監視ユニット無しで?」
「勝手ながら、私の内臓端末よりホストサーバに通達させていただきました。現時点において、デメリットを促す要素は皆無と判断しての行為ですが……差し出がましい行動だったでしょうか?」
「えと、全然そんなことないから、どんどんやってみて」
「了解しました、マスター」
 一連の会話についてはさておき。
 未だ熱すぎる砂を踏まないようタイルの覗いた地面を選び、"海の家"と表記された建物の残骸目指して歩みを進める。
 そのまま裸足で、ガレキの上に歪んで敷かれた赤絨毯を踏んで進み、地下へと降りる梯子を伝って、ゴムボートの上へ。
「それでは参ります」
 海水で半ば満たされた地下通路の中を、天井も気にせずにオールを漕いでくれるアルファを頼りに小さな航海。
 終点手前の梯子まで移動し、そこを上に、スロープを右に。
 ぬめりの取れない地面をひた歩くこと少し。目当ての空圧式大扉に近づいたところでアルファの足は止まった。
「マスター、内部に動体反応2。パターン:生態構築群・小型四足にて体内熱源多数――データベースに該当個体無し。未知の生物です」
 分析結果は矢継ぎ早に示された。彼女の記憶層にはBSコントローラを引き出しに僕の戦績等々全てが把握されている。つまりは僕にとっても未知の物となる。
「マスター、御指示を願います。経験則から判断するに敵対生命体です」
 やっと目が慣れてきた暗闇の中、彼女は僕の方を見ずに告げる。
 引かれていた僕の手には、彼女の緊張が握る力となって伝わっている。
「武装は?」「近接戦は可能です」
「僕用の銃器は?」
「動体の速度と地形から判断して、跳弾の可能性が見つかりました」
 彼女は此方を見ない。握る力も先ほどより緩んでいる。更にはこの物言い。
 ここで胸の内に不満を覚えない人間なら、或いはこんな旅にも出なかったろう。
「アルファ」「……はい、マスター」
 返事を聞いたが合図に、僕は彼女の身体を弄り始めた。
「マスター?」
 とりあえず胸。まずはさておき胸。何はなくとも胸、胸、胸。
「あ……マスター……私をお求めでしょうか?」
 早速硬い物発見。アルファの胸は収納にも便利なようだ。
「ぅ、あ……マスター、その、状況と比較して……いえ、過去のマスターの類的行動と比較して……その、これは、経験にない……未知の状況下――マスター?」
 電気銃発掘――弾倉に問題無し。
「マスター!」
 いきなりだった。
 武装を確かめていた僕に対し、アルファは滅多にない強い口調で言い放つ。
「マスター、たった今、私はあなたに質問したいという欲求を覚えました。その感覚は稀有と判断します。つきましては、このアルファX02Dに関する経験学習機能を有意義とすべく、私の質問をマスターにぶつける許可を願います」
「あ……うん、はい」
 この後のことはよく覚えていない。
 気付けば地下の駐車場で愛車の修理を終えていた。
 大破状態だった筈のエンジンが稼動するまでに作業は進んでおり、シャーシの装甲についても或る程度の目処が立っていた。
 そして傍らにはとっても上機嫌なアルファ。
「マスター、当該施設の監視機能が再起動するまで後五時間となりました。急ぎ宿泊設備に移動することを提案します」
 何だか彼女にしては珍しい言葉を次々耳元から吹き込まれる内に、先ほど起こったという記憶がどんどん空白になっていくようで。
「なぁ、アルファ……さっきいたモンスターは……」
「既にその懸念事項は解決済みです、マスター」
 そう告げる彼女の表情はいつもと変わりない。
 声に仕草に調子に気配に、何時も通りと見受けられる。
 だというのに彼女を上機嫌と分かる僕。直感ゆえの結論。
 そう、だからこそ――なにかおかしい。
「いや、そうじゃなくて、質問って……しかも返事を2回したからとか何とか」
 断片と消えてゆく脳裏の光景には、その他にもナイフ両手に駆け出していく彼女や、そこらへんの石柱を背負って肉片一つ余さず……と、えーと、何だっけ?
「それは、精神的重圧が及ぼした短期間の記憶障害という判断で、マスターも御了承されたと記憶しています。そのような些事は別として、急ぎ提案の実行を」
「精神的、重圧?」いきなり不穏当過ぎる単語が頭の上を通過した。
「先ほどマスター自らが仰られたことです」
 ……憶えてない。まるで憶えてない。
「ってゆーか、記憶障害なんて自分で分かるわけ――」
「マスター、私は頭蓋より引き出される情報に沿って、その、マスターの疑問に応えているのでして」
 困った。アルファが困っているという顔をした。
「……アルファ?」
 知らず覚えた罪悪感が彼女の名として口に出た。
 それは僕という存在を主人と認識してしまい、様々な辛苦を共にして今に至る彼女への、その存在理由すら疑ってしまったという罪への気持ち。
「ごめん、アルファ。君が僕を騙す理由なんてないのに……」
「いえ、マスター。今回は此方の不備もありました。そのような状況下で従者に頭を下げられては私としても納得いたしかねます。不躾ですが、どうか御気になさらぬよう願います」
 こうやって、愚かな僕に対しても、彼女は真摯に対応してくれる。
 僕は本当に分不相応な出会いを遂げてしまったと、痛感する。
 結んだ関係が偶発的とはいえ、僕を主人として敬い、影に日向に立ててくれる彼女は今もなお傍にいてくれている。
 そう、そんな彼女に疑いを持つなどとは全く以って――「"失礼だ"」
「うん失礼……え?」
「マスター、本日は常日頃と異なる疲労も見受けられます。どうか――」
「うん、うん……そうだね。じゃあ行こうかアルファ」
「はい、マスター」
 考えてみれば先のような提案を彼女の方から言い出すというのも確かに珍しい。
 僕は今日、とても疲れている。だから今日は――「"アルファと寝よう"」
 ――その夜、僕がどれだけ彼女を必要としているか、とても実感できた。

 その建物は巨大な行楽施設だった。
 中心は三件の高層ビルを幾数ものパイプ型通路で結んだ複合建築物。
 周りには数多のレジャー施設を揃え、眼前に望む入り江では水浴に備えた環境を用意。外周には野良戦車の一団さえ寄せぬほどのレーザー砲を並べて高圧電網を配備し、内部では給仕と護衛の役を兼ね備えた様々な自動機械が昼夜問わず活動。ビル三本の中心より地下に存在するという管理システムはその全てを統括すると共に、発電所の制御を軸とする施設のライフラインを確保、運営を継続させる上での考慮を第一としたソフト的進化も怠らないという。
『本日ハ当施設ニ御出デ下サリ・真ニ有難ウゴザイマス』
 そんな途方もない場所に僕たちが辿り着けたのは、単に舗装が良い道を辿ってきた結果に過ぎない……のだが、果たしてこれが幸運だったのかどうか。
『装甲車両ヲ押シテ来ラレタ方ハ・・・失礼・前例ガアリマシタ』
 僕たちはそこで出遭った案内役の機械を通して管理システムと交渉し、最初は料金を支払う形での宿泊、及び車両の修理を受けようと思ったのだが。
『大変申シ訳アリマセンガ・当方・"金"デノ御清算ハオ断リシテオリマス』
 支払いを可能とする交換材料が足りなかった。
 外とは通貨が違うのでは、というアルファの意見も採用して、通常の金銭に加えて金のインゴットまで備えていた僕の配慮も足りてなかった。
『近隣ノ"プラント"ヨリ調達シタ分ガ倉庫ヲ圧迫シテオリマスノデ』
『デスガ・当施設ハ代物ノ清算ニツイテモ滞リハアリマセン』
 遠まわしの拒絶すら使いこなす管理システムこと"支配人"は、こちらの失望も待たずに妥協案を示してくれた。
 彼は施設を発展に繋がるモノならば、有象無象いかなるモノとて引き取ると豪語する。
「とにかくアルファは駄目です……こっちの筋肉メダルならイーですけど」
 その言葉は本当だった。交換したメダルについては、愛車に似合わぬ主砲の反動を抑える為、やむなく積んでいた重石の一つだと言い訳しておく。
 そんなわけで僕たちはその奇天烈な(彼曰く)芸術品によって、駐車施設の利用と食事等のサービスを利用できるようになった。
「私という事物の価値は、マスターの認識によってしか左右されないと自負しております」
 ただ、個人的に、対物交換の本質は互いにどれだけ納得できるかに掛かっていると思ってはいるのだが、今回は別の意味で納得できるかどうか難しいところだった。宿泊までの交渉は面白いまでに難航する。
『・・・一応ハ不当廃棄トイウ形デ決着シテオリマスノデ』
 修理部品については駐車場にあるというジャンクの山を代替することとなった。遺失物扱いとなって久しいそれは、しかし元はお客様の持ち物ということで期限が切れているにしても職業倫理により扱えないのだと、彼は言った。弾薬や燃料についても同等。
「後は部屋代……一日二日じゃ全然足りないから助かるけど、半額で、しかも無期限ってのは実際どうなんだろ」
『"スウィ~ト"以下ヲ御用意デキマセンノハ当方ノ不備デスノデ』
 そう、残るは当座の宿泊料金。
 けれどそれは丸々半額にしても賄えるものではなかった。
 ここで我が相棒が借金のカタになると言い出し、議論は更にこじれる。
「マスター、武装の補填が最重要という事態は何も変わっておりません。また、近隣に生息する生命体の内、対人兵装を主とする個体も既に確認しています。ゆえに此方で修理を完了させ、その後はマスターお一人で近隣を捜索。支払いと成り得る品物を収集されるその間は、私が借金の保証として詰めさせていただきます……如何でしょうか?」
「確かにそれならアレだけど……けど僕はやっぱりアルファと……」
『当方ト致シマシテモ只今ノ提案ヲ是非ニ議論ヲ収束シタイト存ジマス』
「あー……借金のカタを別なものに変えられないかな……アルファと戦車以外ならホントに何でもイーからさ」
 拝み倒す構えは熟練のそれ。僕は土下座も辞さない心意気で最後の交渉に入った。
 対する彼はしかし淡々と告げた。
『他ニ拝見シタ品物全テ併セテモ負カリマセン』
『此方モ慈善事業デハアリマセン』
『滞在ヲ望ム当方トシテ・御部屋ノ御利用ハ基本事項デス』
『駐車場ニ寝泊リナサレル方ヲ・オ客サマと扱ウワケニモ参リマセン』
『何ドデモ申シ上ゲマスガ・私ドモモ商売ヲサセテ頂イテオリマス』
『其方ノ御不都合ナラバ・遺憾ナガラ御引取リ願ウ事モ吝カデゴザイマセン』
 正論だった。清々しいまでの正論を言い渡された。
 後払い制という余り馴染みのない料金方式を起用している異邦の宿泊施設においても、金の無いヤツ泊めらんない、な完璧な論理は存在した。
 議論は終結する。僕は断腸の思いというヤツをつくづく痛感しながら、アルファの提案を口約することとなった。
 膝は実際についた。旅路での疲労感に敗北感が重なったおかげか、はたまた安息の道が開けたという気持ちの現れか。
「マスター」
 案内役が気付くより先に身体を支えてくれる彼女の好意も、この時ばかりは辛かった。僕は彼女を質に入れるという案に賛同してしまったのだから。
「ごめん、アルファ……やっぱり僕は――」
「アナタはマスターです。だからこそ私は提案しました。それに私はマスターの運転技術について、確かな認識を得ております。ですからそう長くは掛からずまた二人で……いえ、予断になってしまいました。申し訳ありません」
 言葉の端々に目移りする。これくらいなら僕にも見抜ける。
「……アルファ」
 たしなめるアルファ、はげますアルファ、照れ隠すアルファ。
 こんな形で裏切った僕なんかを、彼女は少しも変わらず気にかけてくれている。
「はい、マイ・マスター」
 こーなるともう何というか男冥利に尽きるということなのかどうか。
 前略、アルファさま。君のためなら砂漠に山に、ストームドラゴン何のその。こんな装備の豆タンだって、停めてみせますティアマット。
 つーか武器と戦車が満足に揃ったところで一緒にバックようか、逃避行再び~って感じで――なんて考えまで浮かんできたわけです。
「いや……ありがとうアル……アルファ、アレ、何かな?」
「自立式多脚砲台に工作用マニピュレーターを付随した物と思われます」
 ただまぁそんな考えも、余りに巨体かつ重武装なレッカー車?が僕の戦車を宙吊りにして丁寧に持っていったのを見て、雲散霧消と消えてしまったわけです、はい。
「アルファ――あのフォートレスっぽい?アレ、なんかこう、間違ってないかな?」
「そうかもしれません。外観の観察から、荷重対策として接合部の溶接に硬さが見られる反面、作業用の稼動部が分離する先端その他に集中しているので、遠隔操作方式と判断しましたが、運搬中に生じる振動について緩衝材以外の吸収が認められます。独立した半自動式機構という可能性も否定できません」
「……いや、そういうんじゃなくて、もっとこう、豆タンとはいえ戦車を宙で抱えて持っていくとか、なんであんなに対空砲つけてんだろうとか」
 それはヤドカリの化け物だった。ハサミの部分が凹型に空いたり閉じたりすると説明すれば中々笑える機械でもあったろうが、片方のの巨大さでもマウス一台入ってしまうのではないかという代物と説明すれば真に笑えない。巻貝の部分に高射砲が二門ずつ三つも縦に並んでいるとなると、それはそれは笑えない。
「斜角は高低に30度と推定。三箇所に分けられる砲塔部分それぞれに完全旋回可能と思われる隙間を確認できます。最上部にある尖塔中部にも稼動痕跡有り。おそらく情報収集用の装備を内臓しているかと」
 いや、そんな感想は聞きたくありませんよアルファさん。さっきまでの甘い空気も雲の彼方に遠のいたんですかアルファさん。これじゃあ単なる妄想男じゃないですか……何ですかその"アナタは堕落しました"って言いたげな半円の白目は。
 そうじゃないでしょう、そうじゃ。
 僕ぁもっと普通の……
 ――変……なんだけど、どっかで見たような気、するのよね。
 ――お兄ちゃん、これって昔ジャンク山で作ってなかったっけ?
 ――ボク、ソレ手伝った記憶とかあるな~
 ――殿方の浪漫とは難しいのですね……
 そうそう、男の浪漫は……じゃなくて、
 ――見掛け倒しっぽいけどなぁ……死角取り放題だし。
 ――戦車は下から。何時も通り斬り込めばいい。
 ――隙間に三つブチこんでやるさ。爆破すりゃもっと簡単だろ。
 いやいや、平坦路面に油まくとか、地盤の柔らかい泥地とかに誘い出して……ってそういうゴツい感想でもなくて、
 ――メンテは大変そうね……地形を選ばないといっても何処まで動くかしら?
 ――アイデア自体は昔からあったみたいですけど。問題は姿勢制御ですか。
 ――六本それぞれ動くとなるとかなり面倒だな。あとは制御回路の中身か?
 ――生態工学の即時流用では限界がある。経験次第といったところか。
 そこなんだよな……結局。同時制御で憶えさせるのって無闇矢鱈に面倒臭いんだ……一応ソレ系の機械モンスター捕獲してもらって調べたこともあったけど、なんてゆーかメカの本能?って感じのヤツが殆どで一部流用どころか参考にもならなくて……
 ――なんにしろ、このルルベルを侮辱したようなデザインは戴けないわね。
 お嬢様は鼻で笑いますか。お笑いになられますかね、この車体フリークは。
 ちなみにワタクシめが作ろうとしたのはカニで、こっちはヤドカリ。
 古い図鑑参照なんでアレですけど、僕のはカニの目をこう、電気式の特殊兵装で結ぼうとした……イーや、空しくなってきた。
 回想終了。
 僕たちはホテルに入って、ついでに管理システムを見学。
 そこでまたアレコレ話し合って、不意に出た話題でサービスの色々を語りだし、管理システムが長年考えてきたという"エレガント"な接待方法をモニターするという提案が生まれて、アルファのお質入りは何とか回避されるに至ったと。
『当施設ハ"リゾート気分"ヲ最重要課題トシテオリマス』
「私はマスターの身の回りを御世話させていただく仕様となっております」
「そんな僕は接待とか慣れてないんだけど……修理に当てる時間も欲しいし」
『ハイ・其処デ今回ハ短時間デノ"プラン"ヲ検証シタイト考エマシタ。マタ・並行シテ現環境ニオケル人体ノ生理的認識ヲ再調査シタイトモ考エテオリマス』
「マスターの生活周期ならば或る程度は認識しておりますが」
「いや、アルファ、多分そういうことじゃなくて、多分僕が心地良いと思えるかどうかってコト……なんじゃないかな?」
『ハイ・マタ・ソノ逆モ然リ・デス』
「……逆?」
 そんなこんなで五日間。
 僕はなぜか疲労と忍耐の狭間の中にいる。

『オハヨウゴザイマス』
 起床は何時も七時だった。
 僕は常日頃では意識しない時計に頼る生活に未だ慣れていない。
「おはよ……支配人さん」
 宿泊者の都合を考えないベッドメイクがまた始まる――そう思って急いで身支度を整えようと寝台の上で着替えを始める。
「おはよ……? アルファ?」
 ここで毎回、こんな新婚生活もアリだな、とか思わせてくれる相棒の愛妻分が足りてないことに気付く。
 そして手紙を見つける。
『"アルファ"サマハ先ホド出掛ケラレマシタ』
 起き掛けだというのに心臓が高鳴るのは何故だろう。
 意識が目覚めれば、昨日の日焼けが依然として治ってないことにも気付いてしまう。その他、色々とどうでもいいことに気付いてしまう。
「手紙、ね」
 僕は上から下まで全てを普段着で整えた。砂と油と鉄粉が綺麗に落とされたそれは新品同然の着心地だった。
 続いてクローゼットの中から装備を取り出す。
 ジャングルブーツが踏み込む絨毯の上は相も変わらず柔らかい。
『読マレナイノデスカ?』
 凝った装飾に満ち溢れた室内上部より余計な音声が流れてくる。
 僕はそれを聞き流す。まずはナイフ、次に電気銃。発煙・焼夷・閃光・音響……携帯できる小型爆弾もベストに差し込んでいき、最後にメインとなるイングラムに弾倉を叩き込む。
「ねぇ、支配人さん」
 ゴーグルを掛ける片手間で僕は質問を返そうとする。
 視線は自然、手紙の表に。そこには"α"という印。
『ナンデショウ?』
「コレはどういうイベント?」
 何をどうしてどう勘付いた。
 それはもう違和感としか言い様のないものなのだが。
『ドコデ気付カレマシタカ?』
 別に朝を共に出来なかったから、という事態に直接の理由を感じたわけではない。起き掛けに彼女がいないという事態は前にも色々あった。思い出すには危険が伴うため、記憶を例に確かめることはしないが、彼女は別に事の後だろうと関係なく、必要と判断すればいなくなる。
 もちろん必要と感じたなら、僕を起こす事も躊躇わない筈。
「手紙は、貰うのは初めてなんだ」
 大体、今回のそれに限っては違うところが多すぎた。
 彼女はこんなことで手紙など書かない。彼女が僕に事後判断を仰ぐなら、それは帰ってきてからのこと。しかも、誰の手紙かぐらい直ぐに分かるという状況で、合理的を胸とする彼女がわざわざ他人にも分かるような印をつけておくだろうか。
「もしかしたら、愛想尽かされちゃったかとも思ったけど」
 更に言えば、彼女がこの場所で僕を一人にするという状況事態が分からない。
 彼女が僕を置いて行動するという前例は、馴染み深い場所に限ってしかない。
 彼女は自分自身が安全だと判断した場所でしか、僕を無防備なままにはしない。
「けど、アルファは僕の保護者みたいな仲間でさ。不満があれば正面から言うような頑固者でさ。この銃を構える時のクセだって、彼女に言われて直されちゃって……先生だったり姉だったり恋人だったり……だけど、僕は思うんだ」
 逃げ出した時、僕は誰にも別れさえ告げなかった。
 仲間にも家族にも大事な人全てにだって、僕は一言も漏らさなかった。
 逃げ出そうと決意した時から今日まで、僕は誰にも決心を告げていない。
 そんなだというのに彼女は一つ二つの言葉だけで、僕の傍にいてくれる。
『ドウゾ先ヲ』
「うん、僕は、本当はアル――」
 朝いきなりの告解はそこまでだった。いきなりの轟音が言葉を打ち消す
「――支配人!」僕は叫んでいた。
 音は下から来ていた。
 倒壊を免れた階下28個より下から順に、それは震度を加えながら迫ってきている。
『・・・認識・急ギ避難ヲ』
 彼の言葉も半ばで消されてしまった。下から比べれば遥かに近い横の一室で扉が吹き飛んだようだ。反射で銃口が動く。
『オ待チ下サイ・オ客様・緊急避難モード・デス・安全装置・ヲ・オ切リ・ノ上・此方・ニ・オ乗リ下サイ』
 やってきたのは食事などを運搬するために用いられていたボックス型の駆動式ロボットだった。形状は大型サイズの荷物を運べるようにと、上部及び正面――二箇所の面が開いており、僕はその中に入る格好を求められたようだ。
「えっと、重心とか大丈夫なの?」
 冷蔵庫の下に車輪を付けたようなそのロボットが、侵入して来た際に勢い余ってドリフトしたのは極々最近過ぎる記憶だった。それは揺れがどうとかでは済まない傾きっぷり。
『姿勢・ヲ・低ク・願イマス』
 乗った後で尋ねたのも何だったが、急発進して廊下を爆走する中で答えるのも何だと思った。僕は乗せられるままに突き当たりまで連れて行かれると、明らかに何所へも繋がっていないと思われる非常口の前で倒され降ろされる。
『此方・ガ・パラシュート・デス』
 非常口の隣で非常用器具を入れた嵌め込み式の収納スペースが口を開ける。
 僕はそれを取り出すまでの間、この蓋って我が家の電子式オーブンのそれと似てるなぁ、なんて感想が浮かぶ。
『ソレ・デハ・ドウゾ』
 非常口が空いた。続く先にはガラスとして割れたチューブ型通路の残骸が少しと、28階分の高度で望める贅沢な景色。あぁ、昇る太陽が見えるってコトは、つまり東側なんだな、ココ。
『オ早ク・願イマス』
 現実は待ってくれない。ただ、コレに似たようなコトは以前にもやっている。
 思い出す。あの時ロジャーの爺さんはコッチの待ったも聞かなかった。
「豆タン! アルファ! いってきます!」
 僕は自慢の空挺戦車と他ならぬ女神の名前をそれぞれ叫ぶことで最後の一歩とする。
「アアアアアアああああぁぁあぁああぁあっぁぁぁ!!!!!」
 落下感、後に浮揚感。
 掛けたままだったゴーグルの頑丈さに感謝しながら、割と遅く流れる景色の色合いを見て、パラシュートの紐を引くまで踏ん張る。
「……へ?」
 二回引いた。三回目は間に合わなかった。
 僕はとてつもない衝撃を受け、そのまま意識を失った。

 時間は少しだけ遡る。
 場所はビルの地下三階に位置する駐車場。
 そこは体積に車両一千台の余裕を持たせた広大な立体形式を採用していた。
 けれど度重なる地盤の変動にアスファルトは適さない。面積の大部分は液状化現象によって使い物とならなくなり、今では下層と上層を結べる一角に猫の額ほどを残すだけの場所となっていた。
 現在唯一の客として部屋を取っていた二人組みの車も其処にある。
 その二人組の片方であるアルファという存在もまた、其処にいる。
「最終要項、確認。OS"ゲイツXX"、機能状況確認。最終チェック開始」
 彼女は車の機能テストを行っていた。
 [C:\PRO^\No%18\18.bat・・・ver.1.21・・・・・・Pass:Y/N]
 座る位置は車体内部の運転席としていた。周りには幾本もの配線。
「・・・"a love"」
 [Succeed!]
 手には小型のキーボード、膝の上には小型の端末機が置かれている。
 そしてその表情には今朝初めての微笑みが宿っていた。
「本当に……遊びの過ぎるマスターです」目元には柔らかな輝き。
 彼女はそこで手を休ませる。それは機能テストを進ませるマシンのスペックが貧弱だという事実以外にも理由があった。彼女には早朝から今に至るまでの過程について、もう一度考えたいという欲求があった。
「それでも、いえ、それでこそ、私に、必要な……私の、私だけのマスター」
 その日の朝、彼女は本来離れてはならない状況下での単独行動を実行した。
 理由は簡単。発端もまた簡単。
 彼女は当該施設の管理システムに取引を持ちかけられ、それを受諾した。
「マスター自身に露呈してはならない。これはシステムの提示した条件。そう、これは致し方ないこと」
 ――今回ハ人体ノ抱エル感情ニツイテ少々手荒ナ実験ヲ行イタイノデス
 システムが示した今回の企画。それは人間の感情に関する調査の一環とも言えた。それは愛情という感情が関わった際にと限定した、人間の行動心理を調査する為のプランとされた。
 そのためにシステムは提案した。彼女に不在を望んだ。
 彼女の不在が続くに対し、彼女の主人がどう行動していくかを観察させてほしいと、彼女は要求されたのだった。
「私にはマスターの期待に応える義務が――そう、今はその代償」
 彼女はそれを受けることでシステムに車両の修理を請け負わせた。
 システムはそれを請ける代わりに、短時間の別離を彼女に了承させた。
「マスターは戦車の早期修理を望みました。これは、しかしこれは」
 提案は朝方早くに伝えられた。彼女が事の余韻に浸っていた時の出来事。
「いえ、マスターは、今現在における長時間の拘束を望んではいないようでした……これは、妥当な……」
 そのとき彼女は告げられている。
 事の終わりを早める事態を。
 今の彼女が終わる予告を。
「マスターにとっても、妥当な判断と推察……します」
 システムは明かしている。
 ティアマットの再起動を。
 そう捉えるに値する、脅威と為し得る情報を。
 ――昨夜未明・地殻観察ヲ目的トシタ音響式探査装置ガ確認シマシタ
 ――比較ノ結果・オ二人ガ移動手段トシタ地中潜行物ニ相違ナイカト
「あの方たちと、お会いしたくないと、それがマスターの御意向と推察……判断します……断定します……私は、アルファは」
 この時、音が鳴った。合成音が一つ鳴った。
 しかし彼女は手元を見ない。膝の上で一つ、作業の終了を伝える一節が映し出されていることに彼女はまるで気付かない。
 彼女は両肩を抱いていた。俯いたまま、震えるように。
「私には確かめる術が在りません……アナタは答えてくれませんでした……私はマスターに尋ねたいと、しかし敢えて願いはしませんでした……私は、しかし、このままでは良くないと考えます……だというのに、考えが行動に、結びついてくれません……解析困難なロジックが……二律背反……障害と……しかし……」
 提案を呑んでしまってから今まで、彼女は暇を見つけてはこうやって独り口ずさむように思考を進めていた。その表情はというと――
「ハッ――マスター?!」
 ここで時間は追いついてしまう。
 彼女は頭上に破砕の音を聞き、また落下物が戦車に当たる異音を耳にし、ようやく事態を理解する。
「強制アクセス・・ビジ――独自開始します」
 状況は拙速を金とした。彼女は試運転も満足でないエンジンに過負荷を強いて馬力を上げ、走輪の接着も待たずに加速を急いで発進させる。
 それから遅からず車両は動いた。車内では急な加速に反応して端末機やキーボードなどが座席足下から背後に回る。
「やはり間違いだったのでしょうか」
 彼女はハンドルを離さない。上部砲塔の楕円に沿う形で移動する外部モニターを背後から前方へと回し、カメラモードを暗視用に切り替える。
「しかし、ここまで施設を破壊しての対象調査という推察は……」
 地下一階への途上、前方に瓦礫で為した障害物を見つける。
 彼女は状況から主砲による即時排除を選択。砲弾には炸薬を減らした鉄鋼弾を使用し、反動は車体を後退させる事で吸収。そのまま砲首を瓦礫と反対側に向けて空砲を一発撃ち。瓦礫の凹凸を越える為の加速を車体に与える。
「マスターの嗜好に合わせた装丁でしたが。私が参考とする日が来るとは」
 彼女は思う。己のマスターの特異性を。
「――上手くいきません。やはり私にはかのマスターが必要です」
 車体の姿勢は壁面にぶつけることで制御。再始動は車輪に任せる。
 その合間、彼女は後方となった地下より音を拾う。
「推定震度6強・・地盤沈下による浸水の可能性含む」
 崩落は始まっていた。目指す前方にも落下物が増えてくる。
 そんな中を彼女はただ前進する。出口へ向けて、主人の愛車が傷つくのも構わず、彼女はひたすらに車輪を進ませる。
「母艦のサポートを受けられたなら……見えた!」
 脱出口である三枚の機動式開閉扉は全て開かれていた。
 ついで陽光を感知したカメラがシステムに頼ってモードを切り替える。
 一瞬の視界閉鎖。彼女はその合間にもまた、悪寒を感じさせる音を拾った。
「――!」
 距離にして数キロ。彼女はその遠間を一瞬で縮める砲弾の切り裂き音を車体の振動から聴いた。身体は既に動いている。
「――マスター!」
 地下の搬出口から出た先は更地となった何もない広場。
 かつては天に聳えるほどの高さを誇っていたホテルの跡地にて、彼女は銃座から空を仰ぐ。落下する人影を視認する。それだけで車内に戻り、運転を再開する。
「衝撃による横転・・落下地点計測完了――高加速形態・点火!」
 小柄な戦車両の後部中央より下から方向性を伴った爆破音が連続した。
 車輪全てが追いつかないまま、車体は落下する人影を追い抜こうとする。
 至る直線までには障害物は無かった。ただ、横行する小型機体の群れを一つ二つ吹き飛ばしたのち、進路は徐々に蛇行していく。
 [2.bat ・・running!]
 [cont rock hand」
 彼女は振れるハンドルに固定制御の機能を使って対処した。車両の帰還を主目的としたプログラムを曲げて備えた仕込みはもう一つ、自立運転の各個制御をユニット内に組み込まれている。
 [wil stop A 200/sec]
 後ろで拾ったキーボードに打ち込みを終えた彼女は、加速の重圧そのままに上部デッキから身を乗り出す。受ける風圧の中には既に小ぶりの落石も混じっている。
「逆光、問題無し――」
 触角が揺れ動いて止まらない。視点は人影の軌道しか追っていない。
 彼女はただ一つ残った高層建築物の中央に風穴が開いた事実を無視していた。
 ゆっくりと、しかし確実に折れて落ちる巨大な質量については考えない。
「――今!」
 彼女は車体を蹴る。蹴って飛ぶ。
 その人影に追いつこうと、彼女は間々ならぬ宙で懸命に手を伸ばす。
「マスター!」
 軌道の並行は完璧だった。しかしこれからの落下を考えれば抱える速さが若干遅れている。彼女はそんな意味をもって主人の呼び名を叫んだ。
 だというのに彼女の主人は意識を失くしている。
 彼はまるで幸せそうな夢を見ているという様子で、穏やかな寝顔に微笑みを交えて晒していた。
 それを間近にした彼女は次の瞬間――
「マスター……!」
 表情を同じくした。

『先の倒壊を招いた決定打、あれは私どもが使った長距離砲による砲撃です』
 聞き慣れぬ声だった。僕は記憶の直前を思い出し、意識を覚醒まで持っていく。
『砲弾には信管を抜いた小口径のものを使いました。ただ、電磁気の出力調節に不備があったようで、結果あのような次第となってしまいました』
「レールガンによる砲撃でしか、打開の道はなかったと?」
 起き抜けに上半身を上げると、聞き慣れた声の持ち主が近寄って来た。
 あぁ、やっぱり彼女がいないと僕はもう、一日の始まりも実感できない。
『複雑に移動する一個体生物群を初撃で滅ぼすという目的に徹してしまいましたので、長距離砲の弾速と着弾予測に行き着いた際には運命すら感じまして』
「おはよう、アルファ」「おはようございます、マスター」
 前に後ろにと聴こえる奇妙な声に構わず、朝の挨拶を済ませる僕たち。
 周りを見れば配線。肌に感じる冷気はおそらく精密機械を冷却する為のもの。
 僕は顔を上げて横に、奇妙な声の主を見つける。
『何分、急な襲撃でしたので判断を誤ったとも思えますが――』
「初めまして、なのかな? 支配人さん」
 透明質の円柱が一つ。床から天井までを巡る巨大な配線の群れを集めて樹木のように佇んでいる。その中心部には曇る材質の影に一つの何かを備えており、それをもって中枢とするシステムが僕たちを包んでいる。
『この姿ではお初に。お客さま、改めまして私、当リゾート施設を預かります責任者、名前は"シナル"と申します』
 其処は以前に入ったジッグラトやティアマットの内部より、設備が整然としていなかった。いや、色合いとして映すならば、青白いコアの明光に逆らわない内装の統合性は慎ましくも穏やかなものといえた。
『私めの姿、驚きになられなかったお客様もこれにて二組目、でしょうか』
「いや……一応、かなり驚いてはいるんだけど、ねぇアルファ?」
「マスター、私は以前にも此方の施設中枢と同形式の存在を知識とした事があります」
 振った話題に共通性を与えてくれないアルファさん。
 その顔は此方を向いているも、常と変わらず表情を読ませない。
「アルファ……もしかして、何か怒ってる?」
「いえ、マスター。私には感情といったものを内より表す機能とて与えられませんでした」
 そうは言っても気まずいワケなのだが。
「ん~……シナルさん?」『はい、お客様』
 僕は左右頭上に位置するらしい音源の声より中央に尋ねる。
「僕ってどうやって助かったの? 渡されたパラシュート、全く全然本当に開かなかったんだけど」
 記憶が言う。僕は倒壊するビルの28階から落下して色々、どう考えても助かりはしない状況で意識を失った筈だと……いや、夢の中では昨夜からの続きとして、何やら古めかしいメイド姿のアルファが……"貴方をマスターです"……とか何とか……指を回したり手をかざしたり額のアレを振り子に……
『・・・確認しました。長距離砲の観測映像に貴方と思われます動体の落下を見つけました。これは当施設の過失規定に沿い、最大限の補――』
「"ちょっと待ったー!"」
 ここにいない者の声がした。それで管理システムの音声が止まる。
「……アルファ?」
「勝手ながら音声の模倣をさせていただきました」
 遮った声の方を向けば、そこには仁王立ちしたアルファの姿がある。
「あれ? アルファその格好……」着ているメイド服はどこともなく汚れていた。
「無作法については後ほどお申し付け下さいますよう――シナル」
『はい、アルファさん。どうなされましたか?』
「私に敬称は無用と以前にも言いました。そして、シナル。マスターが受けた被害については此方で対応します。アナタは責任と今後の対策を考察するだけで結構です。賠償補償、その他については後日ということで――マスター、宜しいですね?」
 話はまるで見えなかった。
 ただ、アルファが何か急いでる様子だというのはなんとなくだが分かる。
「アルファ、何かこう、急ぐコトとかあったっけ?」
「御報告が遅れました。マスター、ティアマットの再度潜行が感知されたとの事です。これはデータリンク範囲内に存在を確認したという私のログとも一致しています。マスター、彼らは貴方を追って来ているのです。もう、すぐそこまで」
 僕は何気なく尋ねた質問の答えを聞いて、しばらく思考が停まってしまったようだった。
 彼らは、追って、すぐそこまで。
「マスター」気付けばアルファに抱きしめられている。
 それはとても暖かい抱擁。するはとても愛おしい彼女。
「シナルさん」『……はい』
 一瞬で決めたことを口にしようとしている。
 何も考えないまま、それを彼に伝える。
「もう行くよ」

 空砲が三連、後ろで木霊した。
 僕は振動に揺れる車両の上で、射撃の主に手を振る。
「頼んだよ~!」
 遠い地点、ヤドカリの化け物もまた、ハサミを振って挨拶としてくれた。
 ソイツはそのまま、僕らが最初に来た道路へと六本足の内輪を向ける。
「……宜しかったのですか?」
 銃座より降りるさなか、上部ハッチを閉める僕に運転席の彼女は言う。
「何が?」僕は彼女の手に重ねてハンドルを握った。
「皆様にお会いせずとも宜しいのですか?」
 彼女はそれを振りほどき、ギアを外して席を立つ。
「今は、ね。一応、名前も手紙も残してきたし……酷いねホント」
「名前を捨てることはできないと判断します、マスター」
 席を立って、彼女は止まる。後部に行かず、そのままに。
「死ねば亡くなると、思ったんだけどさ」
「名前は亡くなりません。たとえ……たとえ、マスターが命を失ったとしても」
「アルファ……僕は何で旅に出たのかな?」
 外部モニターには断崖に沿う形で曲がりくねる道が映っている。
「それは、マスター御自身にしか分からないことかと」
「うん。そうなんだけどさ……そうなんだけどさ」
 左には沈下した崖、右には落下する崖。
 僕はハンドルを右に切った。速度は、あと二秒といったところ。
「マスター!」
 彼女はそれを左に戻した。手遅れになる前にブレーキも踏んだ。
 僕はそのどれにも関わっていない。
「こういう、コトなんだろうね……」
「マスター、これは自殺願望というものでしょうか?」
「……うん、そうとも言えるし、そうでないとも言えちゃう、かな」
 僕は今、考えてものを喋っていない。
「今、僕はアルファが止めてくれると思って、こんなことをしてしまった……うん、多分、自分は死なない、なんて考えてのことだろうね」
「マスター、それは破滅願望というものでしょうか?」
「そう、だね。でも、コレは楽しくなかった」
「……マスター」
 手は動く。座れば足も動く。僕は車を再発進させる。
 アルファはそれを止めなかった。僕の妄言は続く。
「僕はね、アルファ。多分、死ぬ可能性のない生活ができると知った時点で、終わった気分でいたんだ。何かを終えた気分、かな」
 僕は脳裏に隣人とは違う彼女を思い出し、笑う。
「そりゃあ、たまには名を上げたいっていうヤツも殴り込んで来たけど……それは違うような気がしてさ……なんていうか、前の彼女やアイツみたいなのと比べたら……蚊に刺されて死ぬ、みたいな感じがしてさ」
 かといって、後ろに行ってしまったヤドカリの化け物が惜しいとは思っていない。彼女のようには、思えない。
「平穏が嫌いってワケでもないんだ……そりゃあ、日焼けや水攻めは大変だったけど、アルファも一緒にいてくれたし、僕は中々楽しかった……けど、昨日あたりモンスターが出て、今日になってアルファがいなくなっただろ? 実をいうと――」
「マスター、お辛いのならもう」
 辛いと彼女は言う。いや、僕が辛そうにみえたというのだろうか。
「……辛そう?」
 僕はそこで、彼女に辛そうと見えないような表情で会話を続けようとして、止めた。代わりに一つ、告白をする。
「アルファ、僕はね……死ぬときはキミの手――」「マスター!」
 告白さえ遮られた。今の僕はアルファの内にある。

 その日。
 多角経営推進体"シナル"は自身を中枢とする企業における、業務縮小を余儀なくされた。
 宿泊施設の全壊という、自らの失態を理由に。
『馬に蹴られるというのは、本当でしたね』
 シナルは誰もいなくなってしまった地下の一室で独り言ちていた。
 ただし彼の視点はその一室にはない。その頭上、通過する一群に向けてある。
「な? やっぱ言った通りだろ? お嬢さま方よ?」
「ですがシャーリィさん、あちらの道を車両でとなると――」
「カール、ぐずぐずしないで。アナタもよ、カウガール」
 最初に来た四人には断られた。
 何を、といえば勿論、彼の商売に関する申し出。
「土建屋っていったって――大体、今はそんなヒマないんだってば!」
「………zzz」
「俺ぁ別に構わねぇんだけどよ……なぁミズ=グレイ、アンタ運転できるか?」
「できないことはない。ただ、修理もとなると、キミに任せるのが良いようでな」
 次の四名にも断られた。
「へぇ~、ボクは構わないけど、みんなはどう?」
「俺も構わんな。先の連中が追いつけば、それでいい」
「わたくしなどはお気遣いなく……ポチさま?」
「ハッフッフ――ワン! ワンワンォ~ン!」
 次の一組は惜しかった。まさか犬に反対されるとは、シナルも思わなかった。
 そして最後の団体組。
 これは家族連れとのことだったので、シナルも提案しづらかった。
 改装予定という旨だけを伝え、彼らを見送る。
『しかし、まさかそれほどに人口が残っていたとは……』
 彼は考える。
 元々この場所は住宅密集地より遠く離れた場所に造られた余暇施設だったと。
 同時に、もし人間があの大破壊より生き延びることができたとて、彼らはこの危険極まりない地域を巡ってまで生活の場を広げようとはすぐにも思わないだろうと。
 彼はこれからを考える。
『冒険……賞金首……ハンター……なるほど。これならお客を呼べそうです』
 彼は今後のプランを実行するべく、土木班・建築班・工作班の編成にかかった。
 まずは、と彼初めての自作であった自立式多脚砲台に追跡の命令を出して。

「マスター、とても良い雰囲気を妨げる存在、群れで探知」
「……ティーガーとパンター? それにバギーがチェイスかけて――アルファ、急速発進!」
「了解です、マスター。ステルス機能はどうなさいますか?」
「ステルス?! 何時の間にそんなモノ――」
「昨夜の内に備えさせていただきました。ただ、迷彩装甲はほぼ剥がれてしまいましたので、内部からの音響遮断・電波妨害などしか――」
「任せた! あと射撃補正立ち上げて!」
「……はい、マスター」

「撃ちま――閃光音響!」
「――耳に来やがったか!」

「モニターが――セバスチャン!?」
「大丈夫でございますとも、お嬢さま――この老体にお任せを」

「コンパクトな造りだったな……成程、さすがは少年」
「ちょっと! 全然見えないし聴こえないんだってば!」
「この程度でヤラれて機械屋ができるかっての。さ――ってオイ!?」
「……zzz」

「ウ~……ハッハッハッハッ」
「前は派手だね~……あ、一応カエデさんは隠れててね」
「今この時という戦場に……皆様、本当に申し訳ございません」
「いや、此処ではどうせ何も出来んさ。精々、流れ弾に――伏せろ!」

「砲門二つに機銃三つ……それに対戦車ライフル2丁って何だよ! オマエら本気過ぎだ!」
 銃弾砲弾が飛び交う中、彼女は終わりを感じていた。
 来てしまったと、追いついてしまったと。
「マスター、進行方向に段差、過重による沈下の可能性大」「煙幕装填!」
 けれど彼女は冷静だった。そして冷たく感じていた。
 こんな、こんな殺意のない戦いに意味などない、と。
 時が来れば必ず彼女の主人は捕らえられるだろう。
「マスター、上方に飛来物多数」「爆薬で吹き飛ばす気か――アルファ、冷却弾準備!」
 そのとき彼は喜ぶだろう。
 仲間たちとの再会に、結局のところ彼は喜ぶに違いない。
 そんなとき彼女はどうするだろう。どうするのだろうと、彼女は考える。
「マスター、地表との固着が未だ充分ではありません」
「――アルファ、今ので崩れたところに上へ行ける高さは?」
 彼女は何の為に、彼の生存を隠蔽したまま、今ここまで彼の旅に付き合っているのか。
「マスター、ゲームは終了したようです……」
 彼女は主従という関係を敢えて考慮に入れなかった。
「……そうだね、アルファ」
 彼女は見る。目の前の、愛しい相手の表情を。
「申し訳ありません、マスター」
 その困ったような笑顔に向けて、彼女は一つ、手の平を振った。
 それで乾いた音が一つ、車内に深く響き渡った。
「アルファ……?」彼は驚いていた。
「私は、マスターにとって、必要とは、思えません」
「アルファ、それって……」彼は二回驚いた。
 そして三回目。
「私は、此の身は、マスターのために、マスターのためだけに存在しています……ですがそれは、私は、マスターを盲信するという行為のためだけに創られたのでしょうか? 私は、しかし今の……アナタを私は……」
「……アルファ」
 彼女は言葉に詰まっていた。彼は彼女の頬を拭うことでそれを止めた。
「これは……マスター?」
「うん、今回の報酬みたいだね。それと、僕からは謝罪を」

 自然、近づいていた二人は……と、いったところで今回の話は終わる。
 彼は結局何を欲したのか――彼女は結局何を望んだのか――そんな二人を語るとすれば、また別の機会がいるだろう。
 そんな二人を戦車より引きずりだすため、今まさに突入せんと得物を振りかざす集団についてもまた、また別の話となる。
 それはこの後の話――彼が仲間と再会して少し――全治三週間とも三ヶ月ともいう長期の療養に入ることとなる後日談についても同様といえる。
 ただ、彼女が頬に触れたというソレが何かについては、
「はい、マスター」
 後ほど彼に教えてもらった――とだけ、付け加えたい。

[Anecdote\MS\Last-resort・・・・・・end]

Water lily HOTEL

『Water lily HOTEL』
恋歌

旅客船“イオカステ”号が港に着岸した衝撃でも慶子と巧は目を覚まさなかった。今
朝未明にサイパンについてすぐ港からこの船に乗った時に服用した酔い止め薬がまだ
効いていたのである。薬が効きすぎる体質は母子だけに実に良く似ていた。まあ、今
はまだ早朝六時なので起きなくても無理はないのかもしれないが。
「Good  Morning!」
他の乗客がさっさと降り、最後の乗客となった二人を船長である三十歳くらいのブロ
ンドの美女がおこしに来た。ちなみに彼女はこの船の機関士とは実の姉弟らしい。サ
イパンを出発する前にそう自己紹介された時に二十人はいた他の乗客が歓声を上げた
が、慶子達にはその意味が良く判らなかった。まあ、出港と同時に二人とも寝てし
まったので、その後の船内がどうなったのかは知らないのだが……
「あ、ついたの」
寝ぼけまなこでまず巧が起き上がった。今年で十五歳になる身体は痩せぎすなので服
を着ていると判らないが小学生から続けた柔道のお陰で意外に筋肉がついている。背
はそこそこで性格はおとなしめだがしっかりしており、結構かっこいい容姿のせいも
あって学校では特に女の子に人気があった。
「ほら、ママ。島に着いたよ。起きて」
巧は寄り添うように寝ていた母の肩を揺すった。久しぶりにきっちり化粧した慶子の
頬にショートボブの髪が当たり、いやいやをするように揺れる。十秒ほどしてからよ
うやく母は目を覚ました。
「あ、巧。おはよう。――ご飯は?」
「おはよう。今日は僕の当番じゃないよ。ママ」
ぼけた挨拶をする二人に女船長が早口の英語で長々と喋った。顔が紅潮しており、笑
顔であるから怒っているわけではないのだろうが二人の英語力――特にヒアリング能
力では聞き取れない。せいぜい巧が、五時間前の出発時には白いきっちりとした制服
の船長が、今は結構危なくらいに胸元の見えるワイシャツ一枚で、しかも運動でもし
たかのように汗をかいている事に気がついたくらいである。僕たちが寝ている間に何
かあったのだろうか?
「船長さん、なんて言ってんのよ。巧」
「わかんない」
「中学校で英語やっているでしょう!」
「・・それを言うならママは大卒だろ」
「卒業後は忘れてるわよ!それが日本の常識じゃない!」
「無茶言うな!」
結局、二人は力一杯の笑顔で愛想を振りまくと言う、純日本人的な対応でその場を離
れ、急いで船を下りた。白で統一された清潔そうな港にはもう乗客の荷物が降ろさ
れ、個々にカートに載せられている。もっとも他の乗客はとっくに上陸してホテルに
行っているので、今、残っているのは母子の旅行用スーツ二個だけであったが。
「きゃーーーっ!遅れちゃった!急ぐわよ、巧!」
慶子が慌て、巧が急いでカートに取りつく。力仕事は小さい頃からちゃんとやる子な
のだ。しかし、顔のほうは何となくまだ船のほうを向いていた。
「どうしたの?忘れ物?」
「いや、さっきの英語がちょっと気になってさ。ウェルカムの後にインセ・・何とか
・・アイランドって聞こえたんだ」
「何それ?」
「……インセクトって言ったのなら、虫の事だよ」
「じゃ“虫島”って言ってたの!あの船長さん?いやーーっ、ママ、虫嫌い!」
  慶子は派手に騒いだ。子供のようだがふざけているのではない。今年で三十六歳だ
が真面目にである。システムエンジニアも慶子のような一流クラスともなればどこか
変な人が多いと言うが・・。まあ息子の巧はもう慣れていたが。
「島の名前は“Water lily Island”だったから・・あだ名なのかな。虫が多いと
か言う」
「そんなのいやーーーっ。“水百合”って名前だから綺麗なところと思ったのにぃ
!」
巧が少し首をひねった。水の百合?
「・・ママ。Water lilyって睡蓮の事だよ」
   やや沈黙があった。いつもの事だ。ミスを指摘されても素直に認めるような慶子
ではない。
「コンピューターってコマンドは英語でしょ?」
「知ってたわよ!巧の英語力を確認する為にわざと間違えたの!」
「はいはい」
「わざとなんだからね!それくらいママだって判るんだから!」
「やれやれ」
巧はそれ以上の反論を諦めてカートを押した。その後で機関士が船長と大きな声で何
事かを話していたが、もちろん英語なので二人には判らなかった。


学生結婚をした慶子は二十一歳で巧を生んだ。その後にすぐ別れた夫は、今思えば何
故あんな関係になったのか判らないほどに影の薄い男だった。まあ、これが若気の至
りと言うものなのかもしれない。
大学卒業後、赤ん坊の巧を両親にまかせて働き出した慶子はシステムエンジニアとし
てはなかなかに優秀で収入もまあ悪くはなかったが、その反面、土日どころか朝も夜
もない忙しさに追い回される毎日であった。そしてそこまで会社につくした割には女
と言う事で昇進等は差別されるのである。
「これではいけない!」
三十歳の時にそう一念発起した慶子は今迄の経験と名前を使って、友達と一緒にソフ
ト会社を設立した。両親はもちろん大反対したが、昔から思い立ったら他人の言う事
など聞かない慶子はおもむくままに突っ走り、ちょっとした幸運もあって、ついに事
業をなんとか成功と言えるまでに導いたのである。
ある程度のお金を手に入れた慶子は今までの協力と親不孝に応えるべく、高校時代か
らの友人の不動産会社社長に探してもらった板橋の立派なマンションを買った.両親
と、もう中学生になっていた巧を住ませるためである。もっとも両親は東京のやかま
しさを嫌い、実家のある九州を希望したので引っ越させたのだが。
しかし、そうなると巧だけが板橋のあの広い4LDKに一人ぼっちでいる事になってしま
う。ある日、いつもどおり深夜に帰宅した慶子は黙って冷めた二人分の夕食を食べて
いる息子を見て衝撃を受けた。巧はせめて母の顔を見ながら食事しようとさっきまで
待っていたのである。
「このままではいけない!」
これほどまでに実の息子をさみしがらせていたなんて!――目から鱗が落ちたような
ショックに慶子は人生を切り替える事を誓った。今までは会社でも陣頭指揮で頑張っ
ていたが、その権限を部下にできる限り委譲する事で自分の仕事量を減らし、土日は
完全休養、平日も八時までには何とか帰れるようにしたのである。収入がその分減る
のは覚悟の上だ。
もちろん、休暇も積極的に取るようにした。今度の夏休みに二週間もの南太平洋での
バカンスを入れたのもその現われであった―――





「しかし、この島全部がそのホテルのものだなんて・・良く見つけたね」
「いーーいでしょう。ネットで探すのはちょっと大変だったけど。“家族”、“秘
密”、“隔離”なんかで検索したのよ」
誰にも知られない場所を選んだのは、バカンス中は絶対に会社から連絡を入れさせな
い為である。このホテルを選んだのは、サイパンから専用クルーザーで五時間と言う
場所にあり、また客をメイルアドレスとファーストネームだけで管理するほどプライ
バシー厳守をしていたからであった。
「ま、二週間ゆっくりしましょう。島にあるのは海と空とビーチとこのホテルだけだ
からショッピングとかは期待できないけど、“夏っ!”てのは一杯あるし、ボートと
かダイビングとかフィッシングとかのオプションも豊富だったからいいでしょ。それ
に実はママ、射撃とジェットボートをしたいの!」
「……そろそろ、自分の年齢を考えるようにしようね。ママ」
「うるさいわね!」
  クルーザーの到着した港もホテルの一部であるから、建物に向かって歩き出した二
人のところへも大柄なポーターがやってきた。現地人らしい褐色の肌のそのポーター
は英語で丁寧な挨拶をして、カートを受け取る。値段が立派なホテルなのだから当た
り前の事なのだが、根が日本庶民の巧には恥ずかしい。二人はポーターに先導され、
ホテルの建物に向かった。
「きれいなとこだね」
 巧がしみじみと言ったように、見事なまでに整えられたホテルであった。庭園の中
に三階建ての建物が点在している設計だが、まるで青一色の空と合わせたかのように
色彩が抜群である。
 鮮やかな熱帯の花々に、きっちりと刈りそろえられた熱帯樹と芝の中にそびえる建
物は基本的には雪のような白を主張しながらも、藤製のひさしや黒檀の東屋のように
生き物の柔らかさを随所に配置している。これによってまるで熱帯の強い太陽の下に
いながらも涼やかな森林の中にいるような不思議な気分を入っただけで感じられるの
だ。熱帯の日差しを考慮した木々や東屋の配置もあくまで視界の邪魔にならないよう
に巧妙に設置されていた。巧は建築や造園には全くの素人だが、それでもこの空間の
趣味の良さは十二分に堪能するほど理解できた。
「うん。こんなに良いとは思わなかったわ」
 うるさ型の慶子も素直に感心する。しかし根が理系(?)なだけに別の事にも気が
ついた。
「…それにしてもカップルが多いわね」
 はっきりと慶子が眉をしかめる。巧もそれには気がついていた。視界のあちこちに
見える人影はホテルの従業員でなければ、絶対に男女の二人連れであった。それもみ
んな肌を寄せ合っているところからして恐らく恋人か夫婦なのであろうが、問題はそ
の寄せ合いかたである。
「わっ!あっちはキスしている!こっちは芝生の上で抱きあっちゃたりして!そっち
の茂みへの隠れ方も不自然!巧!中学生は見ちゃ駄目よ!」
 慶子がわあわあ騒いでも思わず見てしまう巧である。それが思春期と言うものだ。
慶子は中学生の息子に対する認識がまだまだ甘いと言うべきであろう。
 さて、それほどまでに周囲の空気は妖しかった。抱き合うカップル達の親密度が確
かに普通ではない。どうも日本人らしい者はおらず、白人四割黒人二割アジア系二割
判断不能二割というところだが、だからなのか親密度が巧達の常識を超えていた。ホ
テルの敷地内の衆人監視の中だと言うのに、まるでベットの上のような悩ましい声と
いやらしい動きは十五歳の巧には強烈過ぎる光景であった。
「何よ何よ何よ!ここってラブホなの?!家族向きってのは嘘だってーの!」
 大声で喚く場違いな慶子を押さえるためにも巧が真っ赤な顔をして反論した。
「ラブホは言いすぎだよ。カップルったって半分以上は親子ほど年齢が違うじゃない
か」
 巧の言うとおりである。客達の過半数は――男女どちらが上であれ――親子ほど年
齢が違っていた。恋人同士にしては不自然であろう。これが男が上ばかりと言うのな
ら売春じじい達かと疑うところだが、その半分以上は女が上である。しかも何となく
子供のような男とも外見が似ているような気がする。やっぱりここの連中は本当の親
子か家族なのではないのだろうか?
「じゃ、あのべたべたぶりは何だっての!ふつう家族であんなことする?説明してみ
なさい!」
 慶子が怖い声で絶叫する。もちろん、“今の”巧には説明できなかった。


「英会話の実地練習よ。行ってきなさい」
 フロントの前で慶子は巧にチケットを渡し、両手でその背中を押しやった。もちろ
んにこやかに微笑んでいるフロントが白人の男女だったせいである。自分の試練をあ
なたの為と称して息子に転送するのはいつもの事だ。巧は文句があるに違いなかった
が、慶子はそれをことさら無視してちよっと離れたソファに座る。その後姿は責任転
嫁を貫くぞ!と言う熱い意思に満ちていた―――こうなっては巧も諦めざるをえな
い。
「ぶちぶちぶちぶち」
 聞こえるように愚痴りながら勇は仕方なくフロントに向かった。
「うるさいわよ!男は細かい事をがたがた言わないの!」
 慶子は自分勝手な事を叫んで足を組み、ソファに身体を投げ出した。ソファはあま
り高級品に詳しくない慶子にも判るくらいに高品質なもので実に座りごこちが良い。
そのまま思いっきりのけぞって背中を伸ばす。
 とーーーー
(あら?)
 のけぞりから戻った慶子はようやくテーブルの向かいに人影がいたのに気がつい
た。白人の男女だ。ラフな身なりからして客であろう。自分の行儀の悪さに赤面し、
慌てて座りなおす慶子であったが、相手はそんなものを見てはいなかった。
「え?」
 慶子の目の前でカップルは濃厚なキスをしていたのだ。それも本当に互いの舌がか
らみあう音が聞こえるほど濃い奴をである。恋人か?と慶子は一瞬思ったが、それに
しては不自然な点に気づく。と言うのも女は慶子よりやや上程度だが、男は巧と同じ
位の少年だったのである。
(何よ何よ、これって淫行罪なの!?それともつばめとかショタコンってやつぅ?)
 理解できない慶子の前で、二人はしつこいほどキスを交し合い――ようやく口を離
した。そして次には男――少年が母親ほど年上の女のシャツの下に手を入れたのであ
る。
(えーーーーーっ!)
 あまりの驚愕に両手を握りしめて口を押さえる慶子など気にもせずに、少年はその
まま女のシャツを上げ、その中をさらけだした。ノーブラの豊満な二つの白い乳房が
ぺろんと剥き出しになる。Fカップはあった。そして女が恥ずかしそうに笑い、少年
もにっこりと微笑んで――その乳房にむしゃぶりついたのである。
「えーーーーーーっ!」
 思わず絶叫してしまった慶子の目の前で少年は丹念に女の乳房を舐め始めた。離婚
後、こう言う事にはまったく縁のなかった慶子にもそれが冗談ではない――本当の愛
撫である事はわかる。女が笑顔のままかすかなあえぎ声をもらし出したのが何よりの
証拠だ。そして少年と女は傍らの慶子の声も存在も無視して愛撫をし続けた。
「終わったよ。本当にファーストネームとメイルアドレスだけでいいんだね。楽なよ
うな――」
「見ちゃ駄目――ぇっ!」
 その時、手続きを終えてちょうど戻ってきた巧の顔面を慶子は両手でひっぱたい
た。派手な音があたりに響く。母としては未成年の目をこの光景から覆い隠そうとし
たのであってもちろん攻撃する意思はなかったのだが、息子には目から火花が飛び出
るほど痛かった。
「何すんだよ!」
 当然、巧は怒ったが慶子は聞かない。一生懸命になって息子をいかがわしい光景か
ら守ろうとしがみつく。
「駄目!中学生には早いの!こう言うことは大人にならないと――」
「だから何が!?」
 力の強い巧はからみつく母をようやく押しのけ、禁止されかかった方向を見た。上
等のリゾートホテルの立派なラウンジに、身なりの良い客やきっちりとした雰囲気の
従業員が散在していると言う――別に異常でも何でもない光景である。すぐそばのソ
ファには白人の親子連れらしい二人組みがびっくりした顔でこっちを見ていた。
「何だってんだよ。変な声だすからじろじろ見られているじゃないか」
「違うの!この二人はたった今――えっと……その、いかがわしい、人前でやっちゃ
いけない事をしていたの!」
 慶子の絶叫に巧はきょとんとした顔でその二人を見る。日本語が判らないらしい二
人もおんなじ表情で見返した。
「何もしていないじゃない」
「してたの!こう女が胸を出して男が口で―――」
 興奮のあまり説明しかかった慶子であったがさすがに実の母が実の息子に言うには
恥ずかしい内容である事に気づき、最後は口の中に消えてしまった。当然、何の事か
巧には通じない。それでも母の様子から何かあったのだろうと思った巧は拙い英語で
その男女に話しかけた。
「Hallo!」
 中学生英語ではあったがとりあえず英語である事は相手には伝わったらしい。巧と
同世代の少年のほうがにこにこしながら応えた。こっちの会話力を気遣ってゆっくり
と話してくれる。しかし、言っている単語が――“nipples”“toy with”の類い
だったから中学レベルの巧には良く判らない(いずれも隠語に近く、それぞれ“乳
首”、“弄ぶ”の意味)。
少年は正直に“僕がママのおっぱいをいじくっていたら君の連れが驚いちゃって”と
言っているのだが――
「――良くわかんないけど“Mom”って言っているからこの人達は母親と子供だと思
うよ」
「そんなはずはないわ!だってこっちの若いのは女の服をたくし上げてノーブラの胸
に……」
 やっぱり全部は言いきれない慶子であった。思わず自分の胸元でジェスチャーまで
してしまったが、そこは母である。こんな性的な話題を実の息子に出すのは興奮して
いても恥ずかしい。まして巧は結構人目を引くほどの美少年で、また最近は実の母で
もたまにどきりとするほど逞しさも増しているのだから――――
「――――――!!」
 何と言ったらいいか判らない母と何が何だか判らない息子を見て白人少年は何か勘
違いしたらしい。その“Mom”と呼ぶ中年女性の肩を抱いて何か言ったのである。自
慢そうな表情が印象的であった。
「何?なんて言っているの?!」
「……なんか――自分のママのほうが大きいぞって言っているみたいなんだけ
ど……」
 巧には“何が”大きいのか判らなかったが、慶子には判った。ヒヤリングが出来な
くても、そこは女のカンである。ぎりぎりCカップの慶子に対し、そのMomとやらはゆ
うにFカップはあったのだ。
「何ですってぇっ!もう一度言ってみなさいよ!これでも日本人じゃでかいほうなの
に!だいたいこれで巧におっぱいをあげたんだからね!巧は美味しい美味しいって
――」
「マ、ママ!ちょっと…もう行こうよ!」
 育ちだけの江戸っ子である慶子だが、怒ると実に喧嘩っぱやい。この剣幕だと本気
で殴りかかりかねないであろう。そんな母を巧は無理矢理引き剥がし、二人の荷物を
載せたカートを用意して待っているボーイのところまで引きずっていった。


 建物の三階の二人の部屋は立派なものであった。広さと言い、調度や内装の品の良
さと言い、東京ならジュニアスイートでとおるであろう。こんな部屋があの値段なの
だからかなりのお得である――もっとも当の母子はそんな事には気づくどころではな
かったが。
「ま―――ったく、なんて所よ!風紀がなっていないわ!ラブホかはってん場じゃあ
るまいし、人前であんな事をさせるなんてこのホテルの良識を疑うわよ!」
 部屋に入っても慶子はぷりぷり怒っていた。最後の胸問題も大きかっただろうし、
また息子を産んで以来、ああ言う事には縁がなかったと言うひがみのせいもあるであ
ろう。とうていその怒りはすぐにはおさまりそうにない。
「……………」
 巧は無言である。それどころかそんな母から、かなり赤くなった顔をそむけようと
すらしていた。慶子はまだ気がついていないが、原因は部屋の調度品である。オー
シャンビューの寝室には大きく素敵でとても広いベットが――一台しかなかったの
だ。
(…これは――その…ダブルベットってやつでしょうか?)
 他にも巧が気づいた点としては、“壁に鏡が多すぎる”、“バスルームが広いのは
良いが何故ベットのような大きなマットが置かれているのか?”、“少女趣味なまで
に可愛らしい内装と何かいやらしい色彩は何故なのか”等々――
 これは確かにラブホというところではないだろうか?そして巧はそんなところに女
性と――しかも実の母親と二人きりでいるのだ。気まずいなどと言うレベルではな
い。頬の熱さだけでも耐えがたいほどであった。
「あのママ…」
 部屋の説明を聞き取れない英語でしたボーイにチップを払い終えた息子はおずおず
と母に声をかけた。顔を見るのも恥ずかしいが、用事があるのだから仕方がない。
「なんかこのホテルの支配人さんとやらが後で挨拶に来るって」
「支配人?いいじゃない、望むところよ!どんなエロじじいだか知らないけど、一度
こんこんと常識ってもんを叩きこんでやるわ!」
 勇ましく宣言した慶子だが、次の瞬間には相手が英語を喋ったら――と言う問題点
に気づいて舌が止まる。巧に通訳させようかとも思ったが、さすがに息子の会話力を
そこまであてにはできないだろう――
 その時、部屋のチャイムが小鳥のさえずりのようなメロディを鳴らした。訪問者に
違いない。母と子は思わず顔を見合わせてしまう。
「その“支配人”さん?」
「巧、出迎えて!」
 有無を言わせない母に押しつけられた息子は緊張してドアの前に立ち、おずおずと
「WHO?」と誰何した。
「当ホテル支配人の美代子と申します。ご挨拶に参りました」
 返ってきたのは意外なことに日本語だった。急いでドアを開けるときちんと麻の
スーツを着た女性がにっこりと微笑んでいる。年齢は四十代後半くらいであろうか。
巧がぽかんと見とれたほどにそのショートヘアの女性は上品かつたいそうな美人で
あった。
「慶子様と巧様ですね。本日は当ホテルにようこそ――――あの…お部屋に入っても
よろしいかしら?」
「あ?はいはい!」
 支配人と言うよりとびきり上等な女教師みたいなその女性――“美代子”の笑顔に
巧は慌てて招き入れる。中に通された美代子を見た慶子もちょっとびっくりしたらし
く、すぐには言葉でない。
「では改めてご挨拶を―――お初に御目にかかります。私は支配人をつとめておりま
す美代子と申します。
 本日は当“Water lily Hotel”をご利用いただきましてありがとうございます。
当ホテル従業員を代表して歓迎と感謝を申し上げます。どうぞお二人ともごゆっくり
と当ホテル自慢の空間と時間をお楽しみくださいませ」
 唖然としている母子に美代子はてきぱきと挨拶をした。いかにもできそうな女性で
ある。もちろん日本人で、以前は結構知られた料理研究家だったと言うのは後で知っ
た。
「こちらのホテルの利用注意につきましては御部屋に備え付けのパンフレットをご覧
下さい。日本語版もございます。一応、基本的なところは日本の本店と同じですが
――」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
 ようやく唖然とはしていられない事に気づいたらしい。さっきからの怒りと不満を
思い出した慶子は乱暴に話をさえぎった。美代子は笑顔のままで口を止める。かなり
の大声だったがまったく動じてはいない。さすがにプロである。
「そんな事の前にいろいろ聞きたい事があるの!まず。このホテルの中の風紀は何?
どこでもなんでもやりたい放題になっているじゃないの!リゾートラブホなんて聞い
た事がないわ!親と子ほど違うカップルもやたら多いし!
 外人ばっかりで慣習が違うのは判るけどこっちは思春期の息子を連れているのよ!
教育上の配慮とか公共性とかはここにはないの!」
「は?」
 今度は本気で判らなかったらしい。美代子は笑顔のまま首を微妙にかしげた。
「親と子ほど?……ですが、当ホテルは本店と同じ主旨でございまして……」
「その本店って言うのも何よ。知らないわ」
「ええっ!」
 初めて美代子の表情が変った。真面目に驚いている。冗談ではないようだ。
「お待ち下さい。お二人は日本の本店“睡蓮亭”の御得意様で、支店である当ホテル
を紹介されていらっしゃられたわけではないので?」
「何よ、その睡蓮亭って?」
 今度の美代子の反応は劇的であった。目を一杯に見開いて硬直している。何が何だ
か判らないが美人なだけに迫力がある。巧など思わず謝ってしまいそうになったくら
いだ。
「睡蓮亭を知らない?ではどうやって当ホテルをお知りになったのですか?!」
「ネットでいろいろやっているうちに見つけたの」
「ど、どうやって!一般公表はされていないはず……」
「いろいろ検索をかけて見つけた個人旅行記の一つからだったけ」
 あっ気なく言う慶子に対し、美代子の方はふらつかんばかりの衝撃を受けたようで
ある。顔色が鮮やかなまでに青くなっていた。
「……で、ではひょっとしてお二人は―――普通の親子なんですか?」
「失礼ね!わたしと巧は普通の本物の親子です!他の客みたいに、かたって人前でい
かがわしい事をしたりはしません!いいですか。さっきなんかは子供みたいな愛人に
“ママ”なんて甘えさせているおばさんがいたんですからね!」
 素直に憤慨する慶子に美代子は片手を額にあてた。その下の苦い表情がかなりまず
い事態であることを証明している。言いたい事を言っているだけの母とは違い、緊張
して口を閉じきっている巧にはそれが良くわかった。まだまだ続く慶子の苦情を巧が
そっと手で制止する。美代子がすぐには応対できないのは明らかだった。
「判りました――こうなった事情については」
 やや時間をおいてからようやく美代子は立ち直ったようである。背筋を伸ばしなお
してから、何も理解していない母子に向き直った。そしてとんでもない事を言い出し
たのである。
「まず念のためにお聞きしますが、お二人は“近親相姦”と言うものをご存知で?」
 母子がその質問の意味を理解するのには十秒以上が必要であった。そして慶子は悲
鳴を上げ、巧は真っ赤になりつつ視線を下にそらす。
「え?ええ――っ!!」
「判りやすく申し上げますと、血のつながった実の家族間で、男女の愛情関係になる
事です。英語で言えばIncestですわ」
「そ、それくらいは知っているわよ!」
 強がる慶子だが頬が紅潮したのまでは隠せない。さすがに実の息子の前で“近親相
姦”と言う話題は恥ずかしかったようだ。
「いったいそれがどうだと……」
「当ホテルは本店になる日本の温泉旅館“睡蓮亭”ともどもその近親相姦ご家族専用
の施設なのでございます」
 美代子の説明によると、睡蓮亭とは美代子の友人である菊乃と言う女将の作った旅
館らしい。そして自分自身も実の息子と近親相姦関係にある菊乃がそこを近親相姦家
族専用にしたのだ。その主旨から広告も出来ない旅館ではあるが、愛好者にはたまら
ないその専門性によってファンを掴み、その口こみによって意外に多かったターゲッ
ト層を開拓して大成功をおさめたと言う。
 そしてこのホテルはその成功によって得たノウハウと資金によって作られた二号店
で、日本人は睡蓮亭の常連のみにし、あとは外国人の愛好者をターゲットにしたらし
い。それが成功しつつある事は、桟橋からここまでに見た客の多さと熱愛ぶりを見れ
ば明らかであった。
「―――と言うわけなのですが。どうやらお二方は全く普通の人でありながら、偶然
にもこんな特殊な有志の世界に紛れ込んできてしまったのですね」
 ため息混じりの美代子に慶子と巧は、首が痛くなるほど縦に振った。驚きのあまり
もう声も出ない。“近親相姦”など話でかすかに聞いた事があるだけで、実際に人生
で目にするなど二人とも想像した事もなかった。
(こんな世界があったなんて――)
 たとえ口が動いても二人ともそうとしか言えなかったであろう。母子は呆然として
まじまじと見詰め合った。
(つまり、近親相姦と言うと自分がこれと――)
 慶子と巧は――母と子は偶然同じ事を想像してしまう。そして次の瞬間には、その
相手が目の前にいることに気づき――同じくらいに紅い頬になって急いで視線をそら
した。
「わかりました。とにかく対応させていただきます。お二方が乗ってきた船にすぐ席
を取りましょう。ホテルも当方で取りますので、残りのバカンスはサイパンでお過ご
し下さい」
 幸い――かどうか、美代子は自分の考えに熱中していたので、目の前の母子の不自
然な動揺には全く気がつかなかった。そのまま大股で母子の間を通り、ベット脇の電
話に取りつく。かなり早口の英語でどこかと連絡を取りはじめた。しかし――
「―――――えーーっ!」
 慶子のほうはとにかく息子と目をあわさないように気まずくよそを見るので精一杯
だったが、それでも美代子の口調が厳しくなっていくのはわかった。何か事故でも生
じたんじゃないのかしらと慶子は思う――その予想はあたった。
「………申し訳ありません。イオカステ号がエンジントラブルを起こしてしまいまし
た。復旧には数日かかるそうです」
 長かった電話を切ると美代子は本当に申し訳なさそうに慶子達に向き直った。表情
からして嘘でもふざけているのでもあるまい。
「あ、そう――そうなんですか」
「ですから、もう少々このホテルに滞在下さい」
「えーーっ!」
「ご不快はごもっともでございますが、修理を終えましたらすぐにでもサイパンへお
運びいたしますので――その間は食事からオプショナルツワーまで全て無料にさせて
いただきますから」


 とにかく船が出ないと言うのなら仕方がない。慶子と巧は支配人の申し出をのむし
かなかった。
「…………」
 平身低頭の美代子が退出した後、部屋は沈黙に満ちた。母も子も口も開けず、互い
を見ようともしない。しかし、互いを熱いほど意識している事は自分にもーー恐らく
相手にもわかりすぎるくらいにわかっている。
(近親相姦なんて……うちの場合だと母と子が――つまりあたしと巧が…そのSEXす
るって事なのよね……)
 無言で壁の模様を見ながら慶子は思った。それだけで頬と――胸までもが熱くなっ
ていく。その熱のせいか、次には思わずそのシーンまでも想像してしまい、頭と心臓
が爆発しそうなまでに血が逆流する。
(駄目よ。こんな事を考えちゃ!)
 急いで慶子は頭を振った。そう、うちは普通の親子なのだ。そんな変なことはしな
いのである。例え、まわりにそういう変な人達が集まったとしても、あくまで普通に
しなくては――
「た、巧。お腹空いたでしょう。朝食を取らない?」
 二人は遅くなった朝食を食べる為に部屋を出た。もうすでにここがどう言うホテル
かは判っているのだが、飛行機を降りてからはまだ一度も食事をしていないのだ。良
識も空腹には勝てない。
 この時の二人は、“近親相姦専門”と言うのがあまりにも非現実的で、まだどこか
で疑っていたのは確かである。また、逆にその非現実があるというのなら確かめてみ
たいと言う好奇心もさらに深いどこかにあったのかもしれない。
 そして――あるいは、しかし――ホテルの中は支配人の言うとおりであった。


 客は必ず家族らしい組み合わせで、しかも家族ではありえない種類の親密さを見せ
つけているようなカップルばかりだった。もちろんキスや抱擁など序の口である。ど
うやらカップル同士ならどこで何をやっても良いらしく、ソファに腰掛けて少女の乳
房に悪戯する中年男性とか、柱の影で濃密に抱き合っているらしいがこちらから見え
るお尻は布切れ一つつけていない若い男女とかばかりであった。
(そんじょそこらのラブホを透視したって、ここまではならないんじゃない?)
 慶子はしみじみと思った。もちろん、この母はその間も息子が教育上悪いものを見
ないようにと手と声で大忙しである。巧の方はただただ気まずそうに床ばかりを見て
いた。
 そんなあまたの迷惑の中をぬうようにして二人はホテルの一階にあるカフェに入っ
た。別にここを選んだわけではない。よく地理がわからないうちに、一番最初に目に
ついたところにたまたまあっただけである。ここがバッフェ(食べ放題フリーサービ
ス)をやっていたのは幸いであった。
「じゃ、取ってきて――いや!いい、ママが行く」
 美人のウェイトレスに案内されてボックス席につき、すぐにもいつもどおりに息子
をこき使おうとした慶子であったが、さすがにこのホテルでは、巧一人でうろつかせ
るのは危険と思ったらしい。急いで自分が立つ。巧の方もその意味は判っていたから
無言の紅い頬のままで下を向いただけで何も言わなかった。
 結局、慶子は四度往復してさまざまな料理をテーブル一杯に並べた。慶子本人には
先ほどからの驚きのせいで、お腹は減っても食欲は不思議と感じられなかったが、育
ち盛りの息子の事を気にして大量に持ってきてしまったのである。料理そのものはと
ても美味しかった。
「ふーーーー」
 なんのかんの言ってもお腹が窮屈になるくらいに食べ、美味いコーヒーを飲みなが
ら慶子は一息つく。その隣で巧が黙ってデザートのアイスクリームをつついていた。
そろそろ十一時近い事もあって、カフェの中では人影もまばらになってきている。喧
騒も心地よい程度の音量だ。さすがに食事中にふらちな真似をする客もいないよう
だ。(後で知った事だが、夕食の時は別らしい。)
 このシーンだけを見れば確かにリゾートホテルの優雅な風景であろう。
「あのーー日本の方ですよね」
 こう言う客さえいなければ―――であるが。
「あ、やっぱり!いやーー。ほっとしました。実は今日あたりに日本人客が来るって
支配人さんに聞いて探していたんですよぉ」
 突然のようにして、母子の席に現れたのは程よく日焼けした目の大きい女だった。
結構美人である。二十歳前後であろうか。極彩色の花柄のタンクトップに白いホット
パンツと言う慶子の年齢では理解不可能なものを着ている。肩あたりからさらけ出し
た健康的な首筋のラインは息子の巧も混乱しそうなくらいに綺麗であった。
「もっと睡蓮亭からのお客がいると思ったんですけど、ここのところはあたし達だけ
だったんです。お兄ちゃんが英語できるから不自由はないんですけど……ここ、座っ
ていいですか?」
「……どうぞ」 
 消極的に慶子は認め、女はそれを気にもせずに巧の隣に座った。見るからに日本語
に飢えているようすである。ここの滞在も長いのであろう。
「初めまして。あたし百合って言います。ここにはお兄ちゃんときているの。
えーーっとお二人はママと息子さんですか?」
 慶子と巧は遠慮がちにうなずいた。そんな二人を女は――百合はにこにことながめ
る。その表情には屈託など全くない。
「あ、やっぱり。姉弟かもしれないって思ったんだけど、母子なんですね。母子相姦
のママって年齢をとらないから判りにくいわあ」
「待ってください!」
 慶子が慌てて口を開いた。思わず大きな声になったのはあせったせいである。
「あたし達は違うんです!」
「へ?」
「あたし達は――そのここのホテルのお客さんとは違うんです」
 百合が不思議そうな顔になった。慶子の言っている意味が良くわからなかったらし
い。それはそうであろう。ここはそういうホテルなのだから。
 結局、理解を得るのには二分少々もかかってしまったのである。百合は驚愕した。
「えーーーっ!じゃ、Hしていないんですか!実の母と子なのに!うっそーーっ!」
 まさかこう言う非難を受けるとは思ってもいなかった慶子達は半分のけぞってしま
う。さすがにこのホテルならではであろう。驚く百合の表情にはやましさなどこれっ
ぽちもなく、多数派(ここでは)としての自信に満ち満ちていた。気の弱い巧など思
わず、自分達のほうが異常ではないのだろうか―と思いそうになったくらいである。
「めずらしいわね。信じられない。健康的で仲良さそうな母子なのに。何か変な趣味
でもあるんですか?」
「ありません!そもそも信じられないのは、そっちでしょう!」
 さすがに慶子も声を荒げた。このままだと何かがなし崩しになりそうな予感が自分
の中で爆発する。
「いいですか。近親相姦ですよ。近親相姦!普通、家族でそう言う事をやっちゃいけ
ないって事くらいはどこの家庭でも習っているでしょう!」
 慶子の絶叫も説教も、百合にはかすり傷一つ与えられなかったらしい。可愛く顔を
かしげただけである。若いけどよほどのベテランなのに違いない。
「いいじゃないですか。別に誰かに迷惑かけているわけじゃないし」
「め、迷惑とか何とかじゃないでしょう!」
「仲の良い家族がさらに仲良くしているだけじゃないですかあ」
「仲良くの方法が非常識じゃない!」
「あたし、愛に常識を持ちこむのは嫌いなんです」
「よそで言えるような事じゃないって言っているの!」
「世間の無理解と言う味付けがあるからこそ、密やかにかつ激しく燃えるんですよ」
 慶子はさんざん言ってみたが何を言ってもこたえない百合であった。しかもそれだ
けではない。何と逆襲に出たのである。
「じゃ、逆にお聞きしますけど、お母さんはこちらの美少年の坊ちゃんは好きですか
?」
「―――当たり前じゃない。母と子なんだから」
「SEXしたいと思ったことは?」
「ありません!」
 普通はそうである。しかし――
「じゃ、SEXしたくないと思ったことは?」
 そこでぐっ!と慶子はつまってしまった。確かに巧とSEXしたくないと思ったこと
はない。いや、そもそもそう言う検討をしたことすらないのだ。
「ほーーら。真面目に考えた事もないんでしょう?していいかどうかより、したいか
どうかを考えた事もないような家族関係の人に、それより深い愛情のあったあたし達
のことをとやかく言える資格はないと思うのだけど」
 慶子は黙る。詭弁のような気もするが――詭弁だ――、自信に満ちた百合の態度に
気圧されたような形になってしまった。
「それからもう一つお聞きしますけど、お母さんは息子さんがどこかの知らない女に
抱かれるのを想像した事があります?」
「……………」
 正直言って想像した事はない。しかし、今、言われてみて脳裏にその事を思い浮か
べると、突如として胸の奥に鈍い痛みが走ったのを確かに感じてしまった。
「ね?嫌でしょう。悔しいでしょう。判るわよ。あたしもそうだったから。
 家族がどうのこうのじゃないの。人間として愛するものを独占したいのが普通な
の。ここの人達は偶然それが家族だっただけなのよ。それを異常だなんて――失礼し
ちゃうわ」
 ますます詭弁のような気もしたが慶子は何も言い返せない。巧が他の女と――と言
う想像が舌を強く止めていた。これは嫉妬だと言って良いのだろうか?そして、その
嫉妬により次におこるべき愛の行動を認めても―――
 二人の間に座っている巧は黙りこくった母を心配そうに、余裕の百合を何故か眩し
く交互に見つめる。それに気づいたのかどうか――百合がとんでもない事を言った。
「ちょうど良いわよ。このホテルってそれ専門だから。いっそここで始めてみたら
?」
「は?」
 今度の疑問符は母と子が同時であった。無理はない。百合はこの普通の母子に、近
親相姦を勧めているのである。驚いて声も出ないのが普通人と言うものであろう。
「大丈夫よ。ここなら完全に秘密は守られるわ。まあお二方は何故か違うけど、お客
は全て同好の士よ。従業員だって日本の睡蓮亭と同じく、あたし達みたいな同じカッ
プルしかいないし」
「え?ええーーっ!じゃあ、あの支配人さんも!?」
 そうらしかった。百合の説明によると、支配人美代子は病弱で若死にした実の弟と
そう言う関係にあったらしい。その弟が死ぬ前にはその弟の子を妊娠までしたと言
う。何でも実業家の愛人になってその男の子供という事にし、愛人を含めた周囲全部
を誤魔化して出産したのである。
 その産まれた子は娘で、もう息子(美代子にとっては初孫)までいるそうだ。もち
ろんその娘や孫に対しても美代子は今まで事実を隠していたが、今回ようやく踏ん切
りがついたらしく、この夏にこのホテルに招待して全てを話すつもりとの事であっ
た。
「だから、遠慮しなくて良いの。外にはばれないから。ここはみーーんな同じ種類な
んだもん。あたしにだまされたと思って母子でHしてみたら?本当に愛しているのな
らすんごく気持ち良いわよ。わたしなんか、ほら」
 いきなり百合はタンクトップの胸をはだけた。そんなに大きくはないが乳首の先ま
で小麦色になった胸がさらけ出される。そこにはキスマークに違いない跡が二桁以上
も誇らしげに残っていた。
「お兄ちゃんったら、口ではいやいやだけど、本当は激しいの。二人きりになったら
すごいんだから。今朝だって―――」
 百合のあまりのおおらかさに慶子は息子の目をふさぐ事も忘れてあんぐりと口を開
けてしまった。


 結局、慶子と巧は逃げるようにして部屋に戻った。その間、ほとんど無言である。
この仲の良い明るい母子がここまで沈黙を守ったのは初めてではないだろうか。無理
はないにせよ、その恥ずかしさと気まずさはどちらにも苦痛以上のものであった。
 さすがにもう外へ行く気もせず、慶子はソファで、巧は少し離れた椅子に座って時
間をすごすはめになった。テレビでも見ようかと思って案内を見たが、日本語の通常
チャンネルはない。ビデオのチャンネルは四つもあり、作品も日本のものがかなり
あったが、まずい事に題名が近親相姦をうかがわさせるようなものばかりである。全
て無料なのだが、さすがにさっきの今で、しかもこう言うホテルに母と子では、見て
みるわけにはいかなかった。
(何だって日本でこんなに近親相姦ビデオが作られてんのよ!)
 それはたんに慶子が無知なだけである。アダルトショップには専門コーナーすらあ
る時代なのだ。
 結局、八つあたり気味に怒りながら慶子は日本から持ってきた週刊誌を読む事にこ
の日の午後一杯を費やす羽目になった。巧はせめてゲームセンターでもないかとパン
フレットを探したが、それも無理と言うものである。ここの客はゲームなんかより
ずっと楽しいことをやりにきているのだから―――
 時間だけがたち、エアコンによるさわやかな温度と湿度の中、窓ガラスの外が暗く
なるまで二人はそうしていた。やがて時計の針が七時になり、八時になる。そして無
言の二人にも空腹感がじわじわと大きくなってくる。こう言う場所でのこう言う時で
もお腹は減るのだ。しかし、また外へ食べに行くとは二人ともさすがに言い出せな
かった。
 結局、ルームサービスを取った。メニューは部屋に備え付けられているからこれな
ら巧の英語力でも何とかなる。十五分後に届けられたディナーセットはとても美味し
かった。
 食後に慶子は宣言した。
「じゃ、ママはシャワー浴びて寝るわ」
 つとめて平静な声である。確かにもう他にする事がない。しかし、こう言うホテル
で母子二人きりで、“シャワー”とか“寝る”とかを口にするのにはかなりの勇気と
思いきりが必要であった。
 母の宣言を聞いて巧はやや困った顔になる。目の前で母に服を脱がれても何故かす
ごく困った気がするし、また、寝ると言ってもこの豪華な部屋にはダブルベットが一
つしかない。そんな息子の狼狽を背中で感じながら、新しい下着や持ってきたパジャ
マをスーツケースから取った慶子は服を着たままバスルームに入った――つまり息子
と同じ事を気にしているのである。
(……どうしよう。シャワーは良いとしても、ベットは一つしかないし…巧にソファ
で寝ろと言うのもひどい気がするし、あたしがソファってのも逆に息子を意識してい
るようで恥ずかしいし……)
 わざとシャワーを大きく開放して大きな水音を立てながらも悶々と悩む慶子であっ
た。
「あーー良いお湯だった。巧、お入り」
 悩んだ末に慶子はなしくずしに決着することに決めた。自分が出るのと入れ替わり
に息子を入浴させ、その隙にダブルベットの片隅でさっさと寝てしまおうというので
ある。身体を洗い終えた息子がようやくバスルームから出た時にはすでに毛布にくる
まり寝息すら立てている母であった。
「え、寝たの。ママ?」
 ちょっと驚いた巧である。あてが外れたのではなくまるで肩透かしをくらったよう
な感じだ。結局、母と同じダブルベットで寝るか、ソファに一人で寝るかの決断は息
子に任されたのである。巧は真剣に悩まざるを得なかった。
 そのまま小一時間が過ぎた。巧はバスローブを着ただけでまだどちらに寝るかを決
めあぐねている。ただ、大きなダブルベットの向こう端に身を硬くして眠る母の背中
をソファからぼんやりと見ていた。ここまでの移動で疲れているはずなのだが、全然
眠くならないのだ。それどころか―――
「………ママ。寝た?」
 こっそりと巧が声を出した。返事はない。照明が暗いので巧には身動きもないよう
に見えたが――。
(わ、わ、わああああああ。何よ何よ!)
 目を閉じたままの母は脳裏で絶叫していた。実は慶子はずっと寝たふりをしていた
のである。寝つけないのは息子と同じ理由からだ。つまり、昼間にさんざん近親相姦
関係を見せつけられ意識させられた事と、今は母子二人きりで同じ部屋にいる事――
「ねえ。眠っているの?本当に?」
(何よ。眠っているのなら何だって言うのよ。何かする気?ちょっと待ってよ。そん
な事いけないわ。それにママにも心の準備ってものが……)
 密かに動転する慶子の耳に巧がソファから立ちあがる音が聞こえた。ゆっくりと動
き出したのである。押さえているらしいかすかな足音がだんだん近づいてくる。慶子
はより一層身を硬くした。
(だ、駄目ぇ!ママだって――)
 巧の足音は母の傍らを通りすぎてバスルームへ行ってしまった。頭の中だけで盛り
上ってしまった慶子はこける。
(何なのよ!何だって言うのよ!)
 これで怒ったのだから母も勝手なものであった。何もなくバスルームに息子がいっ
たのだから良いではないか。それとも何かしてもらうことでも期待していたとでもい
うのだろうか?
(ふーーんだ!やきもき…じゃなかった、心配させて!こんな時にお風呂で何してん
のよ!)
 シャワーの水音などはしないのだが、何故か巧はなかなか出てこようとはしない。
何かやっているらしい。バスルームで寝ようとしているわけではないのだろうが。
(悔しいから――いや心配だからのぞいてやるぅ!)
 さっき気がついたのだが、バスルームのベット側の壁は実はスライド式の窓になっ
ており開放できるのである。入浴しながら部屋の風景越しにオーシャンビューできる
ようになっているのだ。だからこちらからも逆にちょっと扉をずらせばバスルームの
中を覗けるのである。慶子は出来るだけ音を立てないようにしてバスルーム側の壁際
まで行き、ほんの少し窓を開けた。
(あ――――)
 慶子の視界にまず飛びこんできたのはバスタブのふちに腰掛ける息子の姿であっ
た。下半身には何もつけておらず、しかもその中心に手をあてている。何かを握り、
上下に動かしているようだった。
(うわうわうわ…わーーーーっ!)
 息子が握っているのはピンク色の大きな棒状のものだった。それが男の肉棒だと言
うことに慶子が気がつくのに数秒かかった。そしてオナニーをしているのだと言う事
に気がつくにはさらに十秒以上が必要であった。
(う、うそ。巧もこんなことするの?あたしの――真面目な巧が……)
 巧は紅い顔で薄く目を瞑ったまま、一心に手を動かし続けている。それを目の前に
しても信じられない慶子であった。慶子は離婚以来、男関係がまったくなく、そう言
ういやらしい事はこのホテルに来るまでほとんど考えた事のなかったのだ。
 しかし、今、母の目の前の光景のように、息子は違うのだ。ちゃんと男として成長
しているのである。こうして処理しなければならない物も身体の中でたっぷりと出来
ているのであった。
 考えてみれば朝からいやらしいものを見せつけられ、いやらしい話を聞かされ、最
後にはいやらしい事を勧められまでしたのである。健康な男の子としては身体の中で
盛り上るものがあって当然であった。そしてそれをどこかで処理したくとも、実の母
がずっとそばにいるのだ。きっと今まで我慢していたのであろう。いや、実はその母
こそが――
「う……」
 母に数十センチの距離で自分のオナニーを見られているとも知らず、巧は絶頂に達
した。吐き出すほどの量の男のミルクが、びしゃっ!と生っぽい音を立てて飛び散る。
そのしずくは覗いている慶子の目元にまで飛び、小さな音を立てた。
(あ………)
 慶子は硬直したまま動けない。びっくりしただけではない。その目元には息子が射
精した精子の小さな塊が熱いままでへばりついているのだ。それはにわかに流れ落ち
ないほど濃厚で、まるで息子の肉棒がそのまま触れているような存在感で母の身体を
縛りつけていた。
 そして驚く事はそれだけではなかった。一度出し終えた巧の肉棒はそれでも小さく
ならず、もう一度しごかれはじめたのである。しかもその時に息子ははっきりとこう
呟いたのだ。
「ママ……」
 慶子の耳にははっきりとそう聞こえた。息子が母を思って欲情しているのだという
事はそれだけでも疑いようがなかった。びくびくとうごめく逞しい息子の肉棒を目の
前で見ながら慶子は呆然としてしまう。
「ママ!」
 次の射精はかなり早かった。先ほど以上の男のミルクが飛び散る。今度は慶子の顔
へはこなかったが、次の瞬間、それを残念だと思っている自分に慶子は気がついた。
「ふーーーう」
  二度もたっぷりと出した事で巧は一応満足したらしい。シャワーで周囲と自分の
身体を洗い始める。慶子は慌ててベットに戻った。
 やがて狸寝入りをする母の傍らへ足音を忍ばせて息子が戻ってきた。慶子はより一
層身を硬くしながら、耳だけで息子の動きを心臓が破裂しそうな思いで探る。次にど
うするのかしら。このまま寝るのかしら。このベットで?いやソファで?
(――それに、あたしはどうしたらいいの?)
 巧がベットの向こうはしに立つ。毛布をひっぱっている。中に入ろうと言うのか。
(えーーーーっ!) 
 しかし、幸いに――か不幸に――か、巧は毛布だけが目的だったらしい。母がくる
まっている大きな一枚しかないと悟ると、あっさり諦めてソファに行ってしまった。
そのままキャビネットから予備の毛布を取りだし、かぶって横になる。やがて、寝息
が聞こえてきた。
(…………)
 息子が確かに眠ったと確信するまで慶子は眠れそうになかった。そうしている内に
ふと股間の違和感に気がつく。指で触れてみると粘つくような湿り気があった。
(え?これって――)
 間違いない。それは女の愛液である。久しぶりだが、指がかすかに触れた肉襞に痺
れるような快感が走ったのだから。
(あたしも興奮しているの?――巧に?)
 そう思った時の衝撃はさきほどの息子の母への欲情を見た瞬間以上であったかもし
れない。慶子は自分の身体の反応と、次にそれを嫌がっていない自分の心の反応に声
も出なかった。
(どうしよう……) 
 頭の中で今日起きたことがランダムに走りまわる。度重なる衝撃に理性がループし
そうだ。まず、この指をどうかしなければならないが――出来ない。触る事が気持ち
良さ過ぎて秘肉から外れないのだ。
 慶子は混乱したまま、それでも声だけはひそめて静かにオナニーを始めた。


 翌朝の朝食もルームサービスだった。ホテルの格を証明するような正統派洋式モー
ニングである。そしてそれを食べている最中に慶子は力強く宣言したのであった。
「泳ぎに行くわよ」
「え?でも……」
 ホテルの中は近親カップルばかりがいろいろなことを――と止めようとした巧であ
るが、具体的に言うのはやはり恥ずかしく声が途中で消えてしまう。よって、慶子に
は通じない。
「私達が悪いことしているわけじゃないのに、なんで部屋の中でこそこそしなくちゃ
なんないのよ!南の海に来て泳いで何が悪いって言うの!」
 テーブルを叩いて吼える慶子に対し、巧は黙ってカリカリのベイクドベーコンとと
ろけそうなスクランブルエッグを食べる。味はとても良いはずなのだが、昨日から身
体のどこかが浮いたような気分になっている巧にはむこうの世界の事のようであっ
た。
 結局、慶子の主張どおりを実行する事になった。
 ここのようにプールとビーチが敷地内にそろっているリゾートホテルでは、外には
シャワー程度のみでちゃんとした更衣室などはない。たいていは部屋で水着を着た上
にシャツやブラウスをつけただけでホテル内を移動し、水のところに行ってから上を
脱ぐのである。二人の部屋備え付けの日本語説明書にもそう書いてあった。会話の
まったく弾まなかった朝食の後に母子はそのとおりにそれぞれの準備をした。
 二週間ものバカンスの予定だから二人とも水着は数枚持ってきている。その中から
巧はできるだけ大きめで余裕のある奴を着た。もちろん万が一にもその下の変化が判
らないためである。そして――
「―――お待たせ」
「あ………!」
 かなり時間をかけてからようやくバスルームから着替えて出てきた慶子を見て巧は
息を呑んだ。なんと母は赤のセパレーツの水着を身に着けていたのである。三十五才
の身体とは思えないほどの見事なボディに加え、腰の極彩色のパレオから伸びた足と
はっきりあらわになったウエストの白さ、そしてそれらの肌の美しさが息子の視線を
釘付けにした。
「…………」
 息子が母の水着姿を唖然として見つめている事は慶子にもわかったが、あえて何も
言わなかった。またいつもの慶子ならこの若い水着の似合う見事な身体のラインを自
慢したのであろうが、それもない。そうするには慶子も思いが強すぎたのだ。
 母の肉体に対する賞賛としか思えない息子の眼差しを意識すると昨夜の光景が脳裏
にまざまざと浮かんでしまう。何か言ってしまいそうな衝動をかろうじてこらえつ
つ、ことさら平静を保った声を出して慶子は息子をうながした。
「さ、いくわよ。日焼け止めクリームなんかは外でしましょ」
 

 エレベーターで一階におり、まずは誘導表示に従ってプールに向かった。このホテ
ルの庭は熱帯樹や築山、モニュメント等の間を縫うようにして、葡萄の房のようにつ
ながった数十のプールが設置された構造になっている。水の中に入れば全部に通じて
いる反面、個々のプールサイドはほとんど独立したような狭い空間なのだ。慣れなけ
ればほとんど迷路である。これでは十メートル先で何があっても熱帯樹やモニュメン
トに邪魔されて、音はともかく見ることは出来ないだろう。
 もちろん慣れていない慶子と巧の母子はすぐにも迷い、どこだかよく判らないまま
にプールサイドの一角に出た。
「あ………」
 そこには先客がいた。一組の若い黒人の男女である。このホテルのことだからきっ
と兄妹か姉弟に違いない。そして二人は真っ最中だった――銀色のビキニの下だけを
脱いだ女が四つん這いになり、その背後から男が腰を打ちつけている。女の押し殺す
ようなあえぎ声と男の荒い呼吸が慶子たちにもよく聞こえた。
「い、行くわよ!」
 目の前のカップルが何をしているかは一目瞭然である。いきなりのこれに慶子は慌
てて回れ右をした。しかし生まれて初めてSEXを生でフルに見てしまった巧は硬直し
てしまい、咄嗟には動けない。それに気づいた慶子はわざわざ引き返してから息子の
手を乱暴に取り、引きずるようにしてその場を離れる。
 しかし、次に出たプールサイドにも先客はいた。中年の白人男性がでっぷりとした
身体をデッキチェアに横たわらせていたのである。問題はそのおじさんが全裸であ
り、しかもその股間に綺麗な金髪の可愛い少女が獣のようにむしゃぶりついていた事
であった。
「もう!他人の迷惑も考えてよね!」
 慶子は地団太を踏みかねない勢いで叫び、またもや初めてフェラチオを生で見て硬
直している巧を引きずってその場を離れた。いやはや思春期の男の子を持つお母さん
は大変である。
 それからも母子は迷路のようなホテル内をさんざんにさまよった。しかも現地時間
ではまだ午前中のはずだが、母子が行った大抵のところには先客のカップルがおり、
それぞれ息子には見せたくない行為に何の照れもなく励んでいるのである。プールサ
イドでの全裸などまだ可愛いもので、プールの中も外もほとんど近親愛の展示場のよ
うであった。
「いい加減にしてよ!あたしが目のやり場に困らなくて、巧がきょろきょろしないと
こってないの!」
 絶叫する母と黙って頬を染めたままの息子は、二十分以上かけてからようやく人気
のない場所に出た。
「そうそう、こう言うとこ……」
 そこは敷地内では相当にはずれらしく、プールではなくビーチであった。熱帯樹と
大きな岩が視界をさえぎって死角となった砂浜であり、不思議なまでに青くて静かな
南太平洋の海と狭いけれども白くてさっぱりとした綺麗な砂がまるで個室のような風
景の中にまとまって並んでいた。
「え……っと―――」
 慶子と巧の母子以外には人影はない。聞こえるのは静かな波の音だけだ。そして見
えるのは青い海と白い砂だけであり、空にも二人を邪魔するような雲のかけらもな
かった。
「………!」
 そこでようやく慶子は自分が息子の手をしっかりと握っている事に気づいた。同時
に息子の肌が異様なまでに熱くなっている事もその掌に感じてしまう。思わず慌てて
その手を振りほどき――またその事にさらに慌ててしまった。
「と、とにかく…」
 何がとにかくなのか本人にも判らないのだが、急いで息子からやや離れる。そして
その照れ隠しのようにして慶子は持ってきた荷物の中からシートを出し、砂の上に広
げた。ここはちょうど木陰になっていて熱帯の熱すぎる日差しがさえぎられている。
意外なまでに海からの風が心地よかった。
 ふと母子の視線が合う。しかし反射的なまでにすぐにもそらしてしまう。気まずさ
と恥ずかしさはまだ濃厚に二人の間にあった――しかし、今日は昨日とは違うのだ。
「日焼け止め塗らなくちゃ…」
 棒読みのように呟いて慶子は出来るだけ堂々とシートに座った。先ほどまで日に照
らされていたのであろう砂の熱さがじんわりと下から伝わる。慶子は日焼け止めクリ
ームのチューブを取り出し、自分の身体に白いローションを塗り始めた。
「どしたの?座ってクリームを塗りなさいよ。ここらの陽射しは日陰にいてもなめら
れないわよ」
 慶子はまだ立ちすくんでいる息子に言った。我ながら声が震えているのがわかる。
しかし、言われた息子はさらに動転していたようで母の不自然には気がつかなかっ
た。
 ちなみに持ってきた日焼け止めクリームは一つしかない。慶子が今つかっている奴
だ。だから、塗ろうとするのなら、慶子の隣に腰掛けてわけてもらわねばならない。
巧にすればそれが恥ずかしいのだ。水着姿の母の隣に座るなんて――ただでさえ、
こっちは変になっているというのに。
 しかし、拒絶は出来ない。熱帯の太陽は決して馬鹿には出来ないし、何よりここで
恥ずかしがればこのホテルの事を過剰に意識しているととられてしまう。巧は唾を一
度だけ飲むと、なんとなくおずおずした動きで母の隣に座った。
「はい、クリーム」
「……ありがと」
 母がひょいと差し出したクリームを息子は、こわれもののようにして受け取る。女
性用だから良い匂いがそこからも、それをつけた母の身体からもした。巧は少しだけ
ほんわかとなる。そんな息子の目の前で母はうつぶせに寝そべった。
「え?」
「え?じゃないでしょう。ママの背中に塗ってよ、それを」
 うつぶせのまま顔も向けず慶子が命じる。意味を理解した巧は悲鳴をあげそうに
なった。
「背中まで手が届かないのよ。お願い。今日の水着は露出度が高いから油断できない
の」
(えーーーーーーっ!)
 まだまだ自分の悲鳴が巧の脳裏に鳴り響いていた。息子がママの背中にクリームを
塗ると言う、普通ならおかしくない行為だが、何せこの島での出来事だ。しかも、母
には言えない事だが、昨夜、巧は昼間の刺激に耐えきれずオナニーをした時にはっき
りと母の裸身を思い浮かべていた。その事への自己嫌悪は確かにあったが、反面、こ
こに来る間、母に手を取られた時は、心も身体も浮かび上がらんばかりに嬉しかった
のである。
(でも……)
 だからと言って近親相姦と言う異常事に納得したのではない。昨日、当事者である
百合は盛んに勧めていたが、ここだけの話だからと受け入られるものでもないだろ
う。何よりも肝心の母がずっと嫌悪感を示していたではないか。ここで母の背中に触
れると言うのはとても嬉しい事であろうが、もし、母にその胸の内が知られでもした
ら――
「どしたの?」
「あ、はいはい。今します」
 あどけなく母に聞かれて巧は急いでクリームを手に取った。この恥かしい思いを隠
すためには、逆に母の頼みを断るような不自然な真似も出来ないのだ。ここは言われ
たとおりにやるしかない。しかし、その拍子に身をひねり――やや強い痛みが走る。
「痛っ!」
「あら、大丈夫?どこかぶつけたの?」
 優しく心配した慶子に巧は愛想笑いだけを返した。痛いところなど説明しない。正
確には出来ない。実は痛いのは股間なのである。さっきから水着の中で膨張している
肉棒がひっかっかっているのだ。肉棒はもうかちんかちんでちょっとでも身体を動か
すとこのありさまだ。外から見れば水着に不自然な棒が浮かび出ているのがはっきり
と見えたであろう。巧は母がうつぶせ状態になっている事をつくづくと神に感謝し
た。
「なんでもないよ」
「うそ。水着の下が痛いんでしょう」
 だから、母にずばり指摘されて巧は心臓が止まるかと思うくらいに驚愕した。
「ななななな――な、な、な、なにを……」
「嘘ついても駄目よ。男の子なんだからしょうがないわよね。さっきから他の客
の……を見て興奮しているんでしょう」
 慶子は言った。動転しきった巧には死刑判決のようにその台詞が頭にこだまする。
冷静に見れば、慶子がうつぶせのままで表情をあえて見せないようにしていることに
気がついたのかもしれないが、それどころではない。指摘に反論も出来ず、正直、こ
の場から逃げ出したい気にすらなったが、母はそれを許さなかった。
「別に遠慮は要らないわよ。ここでやったら?」
 巧は何を言われているのか十数秒も判らなかった。その間、慶子は無言で顔を砂に
向けている。やがてようやく理解した息子は本当に心臓が止まるような驚愕に飛びあ
がってしまった。
「や、や、やるって………」
「巧くらいの男の子なら毎晩やっているんでしょ。大丈夫よ。あれは回数さえ自制す
れば身体に悪いことじゃないわ。どーーぞ。じゃないとずっと痛いままよ。そこ」
 出来るだけ平静を保っているつもりの慶子だが声が上ずり、棒読みになっているこ
とは自分でも判る。すごい事を言っていると言う自覚ははっきりとあるのだ。そそっ
かしい慶子であるから“つい言っちゃった”と言うのに近いのかもしれない。同時に
ここまで恥ずかしい事を言わせた息子が次にどうするかについて身悶えしたいほどの
好奇心もあった。
(ちゃんとここでするのかしら?それとも我慢するのかな。いや、昨夜、口走った事
を実現しようなんては―――)
 この時の慶子の心境は初めての恋人に隙を見せた女の子にもっとも近かったのかも
しれない。何故なら、今の予想のどれがあたっても慶子本人はどう受けとめるか、ま
だ決めていなかったのである。
 うつぶせの姿勢で息子に向けた背中一杯を耳として、慶子は息子の反応を待った。
そのまま意外なほど時間が経過する。その間、一番気になったのは息子がこのホテル
のような事を――母との近親相姦を選んだらどうしようかということである。
 この時、慶子の中では不思議な事に最初あれほどあった嫌悪感に代わって、ある種
の恐怖みたいなものが一番大きくなっていた。母と子同士と言う行為そのものに対し
てでは、恐らくない。きっと巧が自分をどう扱うかについてである。そしてどうされ
たら慶子自身は満足なのか――或いはどうされたら慶子はどう反応するかは自分でも
全く判らなかった。
 そのようにして二人だけの海岸に沈黙が続く。気の短い慶子ではあるが、今度だけ
は辛抱強く待った。
 そしてついに動きが出た。慶子の背中に熱い蝕感があったのである。慶子はびくり
と身体が大きく波打つのを押さえる事が出来なかった。しかし――
(―――日焼け止めクリームを塗っているのね。これって……)
 慶子は思わず果てそうになった。巧は最初に命じられた通りに母の背中にクリーム
を塗り始めたのである。落胆する筋ではないのだから文句も言えないが、緊張して盛
り上った分、やっぱりがっくり来てしまう慶子であった。
(もう!ママがここまで言ってあげているのに!)
 理不尽な怒りにかられて慶子は顔を横にした。そのまま手を伸ばす。いや、最初は
そこまでする気はなかったのだ。巧の自主的反応――ないしは主導権を期待していた
のである。しかし、ここまで来てもまだ何もないことが慶子の怒りと勢いをさそって
しまった。
「それよりここはいいの?」
 そう言いざまに慶子は息子の股間をしっかりと握ってしまったのである。慶子の掌
に火のように熱い棒と化した息子の肉棒の感触がはっきりと伝わった。あまりのこと
に巧が女の子のような悲鳴を上げる。それがさらに余裕のない心理状態の慶子の勢い
を加速した。
「痛いんでしょ?しても良いって、ママは言っているじゃない。それとも――」
 そこで一呼吸つく。さすがに次の台詞を言うのには度胸と興奮が必要であった――
そして次の瞬間、はっきりと言ってしまった。
「それともママが必要なの?昨日みたいに!」
 今度は母の言った意味を巧はすぐに理解し、瞬間的に恐慌状態になってしまう。そ
うであろう。無理もない。昨夜、母を想っていたオナニーの事を当の母は知っていた
のだ!
「……あ、あ、あ、…ママ……」
 何と言って良いか判るわけもなく、巧は泣きそうな顔になった。肉棒を母にしっか
りと掴まれている驚きなどこれに比べればまだ小さい方だ。この近親相姦のホテルを
あそこまで毛嫌いしていた母に、息子がそのいやらしい欲情を感じていた事を知られ
てしまったのだ。普通の男女の失恋などとは次元が違う。これで産まれた時から何よ
りも価値のあった母と子の幸せな親子関係は消滅したのである。今から自分は母に欲
情した背徳的な男でしかないのだ。それも、最愛の母にとって――比喩ではなく本当
に巧の目の前は真っ暗になっていた。
「じゃ、してあげるわよ。水着を脱ぎなさい」
 気絶しそうな巧は慶子の台詞が良くわからなかった。ただ、母に短気が出た時のい
つものせいた口調だけが耳にこだまする。だから、慶子が遮二無二、巧の水着を脱が
し、下半身を剥き出しにしても、ほとんど抵抗出来なかった。
(うわ……)
 慶子の目の前に素肌のみになった息子の下半身が現れる。今度、息を呑むのは母の
ほうだった。
(お、大きっくなってる……)
 巧の肉棒は熱く硬く硬直し、まるでそこだけが別の生き物のように起立していた。
確かにこれは勃起だ。男が欲情した証である。しかし――
(やっぱり、この母であるあたしに対してかしら。それともさっきから他のカップル
のいかがわしいシーンを見たせい?)
 その瞬間、慶子は深刻にその点が気になってしまった。勝手な話である。まだ、息
子の欲情を受け入れる覚悟も決まっていないくせに―――
「……動かすわよ」
 もやもやとした嫉妬に似たものを感じながら、慶子は手を、しかしそっと動かし
た。滑らかな上に、皮のような触感の下に脈打つような熱い何かがはっきりと掌に伝
わる。それは筋肉の塊よりさらに逞しく、もっと卑猥であった。
「あ………」
 息子の反応は早かった。十回も上下しないうちに、びくっ!と大きく震え――巧の
声と共に爆発したのである。同時に昨夜見た以上の量の白い粘着液が飛び散る。
「わ」
 一拍おいてからようやく慶子は間抜けな声を出した。驚いたのである。こんなに早
く息子が射精するとは思っていなかったのだ。それも母の手の中で。
「だって――」
 巧は泣きそうになった。実の母の中で射精してしまったのである。恥ずかしいなど
と言うものではない。早かったのだって、昨日思い浮かべてオナニーしたばかりの母
が直接しごいたのだから無理もないだろう。その証拠に――
(……あ、また――)
 思わず慶子は息を飲んだ。握ったままの息子の肉棒が――今、どくどくと音を立て
て射精したばかりのそれが――、ぐん!と言わんばかりの勢いで硬さを取り戻したの
である。そのままさっきのサイズになるまで十秒もかからなかった。
「元気ねえ」
「ママが握っているからだろ!」
 思わず呟いた慶子に巧は思わず叫んでしまった。恥ずかしさでいくらか我に返った
らしく、真っ赤な顔のまま腰を引こうとする。しかし、慶子は手を緩めなかった。
「ちょっと待ってよ。これってあたしのせいなの?」
 自分でも驚くほどに真面目な声だった。息子の勃起した肉棒をしっかりと握りなが
らではふさわしくない口調だが、慶子自身は大真面目である。笑ってはいけない。何
よりも息子が何に欲情しているのか――昨夜から知りたかったのがそれだとようやく
口に出せたのだ。
「そ、そうだよ」
 急に勢いが変った慶子に押されてしまいながらも、巧は答える。
「握られているから?それともそれがあたしだから?」
「………ママだからと思う」
 ほんの少し躊躇はしたが、母の勢いに乗せられるようにして思わず言ってしまっ
た。言ってから“まずい!”と気がついたがもう遅い。慶子の目が輝いている。
「じゃ、巧はママとこんないやらしいことがしたかったのね」
「……………」
 にわかに巧の口が石になってしまった。それはそうであろう。普通の母子の会話で
はないし、実の母親に息子が言える内容ではない。たとえ――
「ここホテルの人みたいなことがしたかったの?このママと?」
 きっとそうなのであろう。このありさまや昨夜のオナニーの時に母の面影が脳裏か
ら離れなかった事からすると。しかし、巧がそれを意識し出したのはほんの昨日から
――このホテルのことがわかってからである。それまではただの一度として―――
(……そうなのかな?本当は僕は……)
「ね、はっきり言って。ママ怒らないから」
「…………」
「正直に言って良いのよ。ここはあたし達二人だけなんだから。他には絶対に秘密に
するから」
「………したかった」
 巧は不承不承うなずいた。もうここまで恥ずかしくなれば、あとは自棄である。何
と言い訳しようと、たった今、実の母に欲情していることは母の手の中で硬直した肉
棒が証明しているのだから。どうとでもなれとすら思ってしまった。
 だから、その告白で慶子がどれだけ感激するのかは判らなかった。
「そ……うなの」
 慶子の声が途切れがちに巧に聞こえる。怒っているのか、あきれているのか、軽蔑
しているのか―――その顔を直視する勇気は巧にはない。胸が鋭く痛んだ。そのまま
視線をおろした砂の上に、ややしてから母の水着がふわりと落ちる。
「え?」
 落ちた水着は赤いパンツのほうだった。その意味を理解した巧が思わず顔を上げ
る。砂に腰掛けた姿勢の自分の上にこようとする母の姿があった。
「え……」
「動かないで。それを小さくしてあげるから」
 おそらく息子と同じ位に紅い頬で慶子は息子の下半身剥き出しの身体に跨った。パ
レオで巧妙に隠しているから巧にはわからないが、その下は母も何もつけていないは
ずである。
「ちょ、ママ……」
「いいのよ。ここは二人だけなんだから」
 何が良いのかわからないが、童貞の巧ですらこれが何の意味を持つのかが判る。現
に股間の辺りに触れた母の下半身は海にも入ってないはずなのにしっとりと湿り気が
あった。
「これって……」
 近親相姦じゃない―――そう言いそうになった巧の口を慶子の左手がふさいだ。
「いいの。あたし達だけなんだから。二人の秘密にしておけばいいの。それに
―――」
 そう言う慶子の瞳が潤んでいる。それが母の欲情した時の表情である事を巧は後に
知った。
「巧が変な事言うから、ママのほうも大変になっているのよ。ちゃんと責任とりなさ
い―――」
 直立した巧の肉棒の先端に暖かく濡れた何かがあたった。ただの皮膚の感じではな
い。そしてそのまま母が腰をわずかに沈めると、息子の肉棒の先の部分はそのあたっ
ている部分を割って、熱くぬめる部分に入っていった。
「きゃ……ん…」
 小さく慶子が叫んだ。巧の肉棒に締めつけるような強い力がかかる。慶子の眉間が
わずかにしかめられた。息子のがきついのか母のが小さいのか―――しかし、慶子は
腰を沈める動きをゆっくりではあっても止めようとはしなかった。
「う……」
 どれだけ経過しただろうか。やがて母の両腿の裏が息子の下腹部に密着する。つま
り、その中心では――
「ぜ、全部入っちゃった―――」
 恥ずかしそうに、しかし満足そうに慶子は呟いた。その下では息子の肉棒は母の肉
壺がすっぽりと飲み込んでいる。ようやく左手を息子の口からはなすと、驚きと喜び
に満ちた巧の顔が現れた。
「だ、駄目ぇっ!大きくしないでぇ!」
「あ、ごめん」
 喜びのあまり、巧の肉棒はさらに太くなったらしい。実は今でもかつかつな慶子は
悲鳴を上げた。ずしん!と秘肉から脳裏までものすごい快感が走る。
「もう!もっとママを大事にしなさい!」
「でも……」
「いい?ここは二人しかいないからなのよ。それにこれは変な事じゃないわ。ママは
巧のここが痛そうでかわいそうだから、小さくしてあげているの!」
 慶子がお姉さんぶった女の子のように宣言した。息子とのこの状態を――近親相姦
を否定はしないまでもまだ恥ずかしいらしい。実際、深く考えてここまで来たのでは
なく、息子の告白に母の女の部分がたまらなくなってしまった勢いでこうなったと言
うのが正直なところである。
「ふふ…」
 もっとも巧にとってはどうでもいい事であった。罪悪感はともかく、今は一番好き
な女性と男と女の部分で交わっているのだ。しかも初体験で。それが可愛い実の母で
あっても、もう止まりそうもない。実兄とここに来ている百合の昨日の台詞の意味が
今はっきりとわかった。
「え………っと―――」
 巧の笑顔が気にはなったが、慶子はとにかく腰を動かし始めた。このままじっとし
ているわけにもいかないし、“小さくしてあげる”と言う大義名分もある。それにこ
うして息子の肉棒を下から突き刺されているだけで実はいってしまいそうなのだ。
(先にいかされちゃ恥ずかしいもんね。でも、巧のがこんなに大きく硬いとは――負
けちゃいそう……)
 ゆっくりとした上下運動の一回一回毎に慶子の頭まで強い刺激が突き上げていくよ
うである。離婚以来初めての男だからか、それともこれが実の息子のものだからなの
か――
(なーーに、十回もすれば、すぐに………九、十、十一、十二――――い、いってく
れない!)
 さっきたっぷり出したばかりの巧ははじめてのSEXだと言うのにまだまだねばって
いた。母としている感動も大きかったが、すぐにいっては恥ずかしいと言う男の見栄
もある。何よりも母の中に少しでも長くいたかったのだ。
「あ……ああ…あああぁぁっ!い、いく、いっちゃう!」
 やがて慶子の方に絶頂は先に来た。痙攣せんばかりに快感が肉壺から全身に走る。
童貞のはずの息子にいかされるのは意地っ張りの慶子には恥ずかしいはずだが、そん
な事を気にしている余裕もすでにない。息子を貪るかのように腰の動きが速くなり、
しかもそれを自分で止められないのだ。
「い、い、い、いっしょに……巧っ!」
 悲鳴を上げ、初めての息子の身体で慶子は絶頂に達した。巧も我慢の限界を超え、
爆発する。息子のミルクがあふれんばかりに母の肉壺に叩きつけられた。


 二人にとっての初めての時間が過ぎた後も母と息子はそのままの姿勢で抱き合って
いた。息子の肉棒が母の中で完全に小さくなるまで、ずっと。
 やがてそれも終わると、ようやく母子は離れた。しかし、互いの体温が離れたとこ
ろでいくらかでも我に返ってしまう。そして次には目をあわすのが二人ともに怖くな
り、ぎこちない空気が流れる。巧は母が今の事をどう思っているのか、慶子は息子が
あんな事をした自分をどう思っているのか――気にはなりながらもにわかには口に出
せなかった。
 慶子はそのまま黙って水着を着なおし、シートをまとめ出した。巧も慌てて自分の
水着を履き、Tシャツを直す。それが終わると慶子は視線をあわせないまま、呟くよ
うに言った。
「ご飯、食べにいこうか」
 やや時間をおいてから巧はうなずく。母子はそのままホテルの建物目指して歩き出
した。
 途中でプールに備え付けのシャワーを浴びた後、二人は昨日とは違うレストランに
入った。看板からするとシーフードとステーキの店らしい。別に選んだのではなく、
目についたからたまたまである。幸い、客はまばらで店内の空気はおちついていた。
「お腹すいたでしょう。一杯食べなさい」
「……うん」
 席につくと同時に慶子は言い、巧がうなずく。ややしてから慶子は、それが二人の
家庭でのいつもの食事前の会話であり、またこの島にきて初めて言った事に気づく。
それが不思議なくらいに可笑しかった。
「……どしたの」
「何でもないわよ。さあ、ママも食うぞ!」
 いぶかしむ息子に十秒前とは別人のように微笑むと、慶子はメニューを取り上げ、
ウエイトレスを呼んだ。もちろん実際に交渉するのは息子である。
 Tボーンステーキとシーザーサラダに何とかのスープと何とかの前菜等々を母子は
お腹一杯食べた。慶子は息子の目からも何か吹っ切れたようだったし、巧はとにかく
母の機嫌が良ければ自分の体調も気分も良くなる息子なのである。
 かくして二人が注文した料理を全部たいらげ、コーヒーと何とかのジュースを交互
に飲んでいる時に慶子が巧の目を見て言った。
「じゃ、部屋に戻ろうか」
「う…ん。でも、まだお昼だよ」
 息子の言う通りである。熱帯の太陽はまだ半分ほど傾きかけた程度で、まだまだ日
暮れには遠い。そして部屋では何も遊ぶ物がない事は、昨日一日かけて証明したばか
りではないか。
「いいのよ。あの部屋で」
 慶子は元気良く断言し――次に頬を急に染めて付け足した。
「それに――あそこなら二人きりになれるし……」


 まだ強い日光が差し込む明るい部屋に入った母子はどちらからともなく寄り添い、
抱きつき、キスをした。
「…………」
 声も立てずにお互いの唇をむさぼりあう。男性経験の乏しい慶子の舌の動きは稚拙
で、巧の愛撫はそれ以上に荒く乱暴なだけだったが、互いに相手に夢中になっている
母子には関係ない。ただただ甘く痺れるように感じるだけであった。
(あ、そう言えば―――)
 息子とのディープキスとの最中に慶子はふと思う。そう言えばこれが母子の初めて
のキスであった。そう、この互いの口腔をなめつくし、しゃぶりつくすようなこれが
――息子は母を思ってオナニーにふけり、母は欲情しながら息子の肉棒をしごき――
そしてついには息子のいきり立った肉棒を母の秘肉の中でたっぷり爆発までさせたの
に、キスをするのは今が初めてなのだ。
 そう思うと何か不思議な感じすらする。慶子の全身におかし味といたずらっ気が走
り、思わず笑ってしまいそうになった。
「……大丈夫?」
 母の身体が不自然に痙攣したので息子は心配になったらしい。今の慶子にはその心
配すらも嬉しかった。
「ね、巧のを全部見せて」
「全部?って何を?」
「ぜーーんぶよ。巧のママのをぜーーんぶ」
 にやりと笑って慶子は巧の水着に手をかけた。え?と巧がいぶかしんだ次の瞬間に
は思いっきりそれをずり下げる。その下から全裸の息子の下半身と――その中心にす
でに直線と化した息子の肉棒が現れた。
「ちょ、ちょちょっと!」
「だーーめ。ママに見せなさい」
 そう言って慶子はひざまづいた。そうすると目の前に息子の肉棒が突き出されるよ
うに位置している。まるで母を威嚇するかのように勇ましいそれを慶子はにっこりと
見やった。
「うーーん。可愛い」
 過激な台詞と同時に、慶子は息子の肉棒をそのままぱくりと咥えた。予想外のサー
ビスに巧は目を見開いてびっくりする。慶子だってどこかでは自分の行動に驚いてい
た。何せ今までの人生唯一の男である前夫にすら口愛はした事がないのだ。今の息子
の肉棒にするのが女として初めてのフェラチオであった。
「マ、ママ……」
 初体験だから、実は慶子はこれからどうして良いのか良く判っていない。それでも
昔見た映画(どんな?)や女友達からの耳学問を思い出して、一生懸命に舌を動か
す。それは確かに下手だったかも知れないが、息子への――いや恋人への愛情はたっ
ぷりこもっており、巧にはそれだけで十分であった。
「――ママ、出ちゃう!」
 今度は自分でも情けなくなるほど早く巧は絶頂に達した。肉棒からの電撃にも似た
快感に急いで母の口からそれを抜こうとする。このままでは母の口に出しそうで――
「(駄目えっ!)」
 しかし、慶子は抜かせなかった。引きかけた息子の腰とお尻に両手でしがみつき、
さらに息子の肉棒を口の奥深くまで咥えこむ。絶頂はすぐに来、逃げられない巧は
たっぷりと男のミルクを母の口の中に発射した。
「……ママ…」
「あーーー、びっくりした。すっごい勢いなのね。巧って。もう三回目なのに」
 罪悪感のような満足感のような、自分でも良く判らない巧に、全てを飲み込んだ慶
子はにっこりと笑って立ちあがった。味がどうこうではなく、息子の全部を飲み込ん
だと言う事によって、自分でも不思議なくらいの充実感がある。
 それからようやく気がついたように巧のTシャツを脱がせにかかった。母の笑顔に
ほっとした巧は初めて悪戯っぽく笑い、今度は逆に母の水着とシャツを脱がせ始め
る。
「やん!こら、セクハラ息子!ママの服を逃がせるとは何事か!」
「おあいこだよ。僕にもママを見せてよ」
「無料じゃないわよ」
「見たらお小遣いくれるの?」
「何だとおぉぉっ!」
 母子は笑いあいながら全裸になった。まだ恥ずかしさが残る証拠に二人とも頬が紅
い。しかし、口も手も止まらず、何より互いの視線は常に絡み合って離れる事がな
かった。
「逞しくなったのね……」
 慶子は息子の身体を見てつくづくそう思った。もちろんまだ成長途上に違いない
が、母に向けられた胸はもう子供の頃のものではない。背丈はやや大きいくらいだ
が、母を見つめる瞳は憧れ以外の頼もしい何かをたっぷりと含んでいた。
 息子の手によって全裸になった慶子は、同じく母の手によって全裸になった巧に抱
きついた。そうすると腕や胸や腰の皮膚からじかに息子の逞しさと――体温が伝わ
る。その硬く熱い刺激を身体中に受け、慶子は陶酔しそうななまでにうっとりとなっ
た。そのとろけそうな母の裸体を巧はそっと、しかししっかりと抱きしめる。
(なんて言うか――息子と言うより、恋人に抱かれているみたい……)
 息子の腕の中で脳裏に浮かんだその考えを慶子は少し笑って訂正した。これは息子
が恋人になったのよ。だって、巧はずっとあたしの可愛い息子で、それなのに今日か
らは素敵な恋人なんだもの―――
「……ママ」
 目を閉じて至福の表情を浮かべる母に巧は囁いた。小声なのは恥ずかしいからだろ
う。決して股間がもう苦しくなっているからだけではあるまい。
「――なあに?」
「ママの……そのおっぱいを――見てみたいんだけど…」
 思わず慶子は巧の顔を見なおした。真っ赤になった息子の顔が至近距離で瞳に写
る。こう言う状況なのだから、もちろん見るだけではないだろう。それには愛撫も
入っているに違いない。恐らくこれが母の身体を愛撫したいと息子が意思表示した初
めての瞬間であった。
 慶子は短い間だけ迷った。先程の砂浜の時も今のフェラチオもあくまで母が息子の
欲情を処理してあげたのである。しかし、今度は巧は母の欲情を受けとめたいと言う
のだ。これを認めていいものだろうか?母として――
(――って、何言ってんのよ。あたしって。恋人同士なら当然じゃん。それに一度は
最後までいったんだし)
「いいわよ――ここで見る?それともベットにうつろうか?」
 自分でも笑いたくなるほどアンニュイに慶子は囁いた。巧は恥ずかしそうなまま
――ベットを見つめる。慶子は慈母のように微笑んでから、抱き合ったままの姿勢で
ベットに身体を傾けた。
 ベットのスプリングによる軽いバウンドに運ばれ、二人は中央に身体を横たえる。
慶子が下になり、巧はその胸元に顔を寄せるような姿勢になった。息子の股間の肉棒
の熱さと硬さが母の太股に微妙に触れる。
「さあ、どうぞ」
 母に優しく囁かれて巧は子供のように微笑み――次の瞬間には貪るように二つの乳
房にむしゃぶりついた。その歯と舌の乱暴な動きが慶子の乳首を捕らえ、強い刺激を
母の裸体に走らせる。思わずそれだけで声がでそうになったほどだ。
「た、巧…もうちょっと優しくして――」
「あ、ごめん」
 母の囁きに巧は一瞬だけ口を止めたが、すぐに責めのような愛撫を再開した。慶子
はその快感に声を押さえるのが精一杯である。その乱暴なだけの愛撫がここまで母の
裸体を震わせるとは予想外であった。そして努力の甲斐もなく忍び泣くようなあえぎ
がすぐにも口から漏れ出した。
「ママのおっぱいって綺麗だね。それに――」
「?」
「ここを舐めた時の声が可愛いよ」
(こ、こいつう!)
 息子の生意気に怒りながらもさらに興奮する慶子だが、声は止まらないし、腰の辺
りまで変になってきた。何より息子の愛撫による快感で身体がねじれそうに動いてし
まう。身悶えているのだ。
「ね、ママ」
 力を込めて恥ずかしい動きだけは押さえよういとしている慶子に巧がまた囁いた。
「下のほうも見ていい?」
「え――そ、それは…」
 駄目ぇっ!――と叫ぼうとした慶子だったが、巧が聞く訳もない。しかし、今の愛
撫どころか一番最初のキスの時から股間は濡れ、秘肉からは涎のように愛液が滴って
いるのだ。それを息子に知られる事は――母が実の息子に欲情し、その愛撫に感じて
いると言う事を知られるのは、今でもまだ恥ずかしすぎる事であった。
 巧の反応は早かった。そのまま息子は母の身体を下になぞりながら、顔を母の股間
に持っていた。母が止める間もなく、息子の目の前に瑞々しい女のしげみとその下の
肉襞がさらけ出される。それらが愛液によってじっとりと濡れている事は慶子にも
判った。
「ふー―――ん」
 巧は一声呟く。実の息子に自分の女の部分を全部見られているというのにどうしよ
うもない慶子は顔を両手でおおいたいくらいに恥ずかしい。しかし、次の瞬間、その
滴る部分に巧は舌を這わせたのである。暖かく柔らかい――そしていやらしすぎる刺
激に慶子はついに絶叫を上げた。
「ひ、ひぃぃぃん――、や、やめてぇっ!そんなとこぉぉ――」
 巧には舌での愛撫をどうして良いか判るわけもない。ただ、母の恥ずかしい部分を
味わいたく――母への愛情と恐らく男としての恋情、そしてその双方からの欲情を
持って舌を動かしているだけだ。ただその思いの分、執拗で丁寧ではある――それが
慶子を狂わせんばかりに刺激的であったのだ。
「た、巧ぃぃ――そん…なとこ…を…」
 慶子のあまりの暴れぶりに、このまま絶頂に達するのではないかと母子共に思っ
た。何せ、口では騒ぎながらも母は股間を息子の口から放そうとはせず、逆にむしろ
押しつけようとすらしているのである。ついさっきにも母の口だけでいかされた巧は
お返しとばかりに舌の動きをさらに強めた。
「駄目!口だけじゃ。巧をくれなきゃ、いやあぁっ!」
 しかし、慶子の反応は息子の予想を越えていた。本当にいきそうになった寸前に、
突如身体を起こし、乱暴なまでの動きで息子の肉棒に手を伸ばしたのである。もちろ
ん、それはかちんかちんなまでに準備OKであった。
「来て…お願い。巧ぃ、ママのところへ…」
 手では強引に引きながらも、口では甘えるように息子に囁く慶子である。巧もそれ
であっさり予定を変えたのだから可愛いものであった。
「ひ…………」
 巧はそのまま母の裸体におおいかぶさり――腰を突き出した。すでに流れ出るまで
に愛液に満ちている母の肉襞が息子の肉棒を一気に飲み込む。慶子は身体中を貫かれ
たような気がした。
「ま、待って!」
 息子の肉棒による痺れあがるような快感にとろけながらも、慶子は必死で息子の身
体にしがみついた。このまま腰を動かされでもしたら、すぐにも失神しそうだったか
らであり、少しでも長く母の中の息子を感じていたかったせいでもある。慶子はその
まま息子の意外に逞しい裸体を下から強く抱きしめた。
「あ、ああ……ああぁぁ……」
 慶子の両腕の中に息子の胸がある。股間にはその腰があり、母の肉壺には限界まで
に息子の肉棒が突き刺さっている。そして慶子は下から、母を欲情で貫いている息子
の顔を見た。
(あ――――)
 その瞬間の息子は男の顔をしていた。逞しく、頼り甲斐があって――慶子の全てを
飲み込み食らい尽くす男の顔を。次の瞬間、慶子は自分が女の子に戻ったような奇妙
な感じを憶えた。
(不思議ね。さっきは巧を男にしてあげたような満足をちょっと感じたのに)
 脳裏のどこかでだが、思わず慶子は笑ってしまう。確かに今の慶子は女に戻ってい
た。例え、その相手が実の息子だとしても。いや、こう言う場合、息子であることは
関係ないのではないかとすらも思った。
(女が女になるのは最愛の男に最愛だと示された時なのかも――それさえあれば息子
だろうとなんだろうと関係ないのよ……)
「来て――巧。ママの中に……巧の好きなように愛して…ママ、ずっと巧の為にいる
わ…」
 その姿勢のまま、慶子は息子に囁いた。巧はにっこり笑い――猛然と腰を動かし始
める。リズムなどまだ知らないから乱暴なだけである。しかし、その一撃一撃が慶子
には声を押さえきれないほどに効いていた。今や、部屋は息子の荒い呼吸と動きによ
る音と母の快感による悲鳴だけが鳴り響いていく。
(あ――――)
 すぐにも慶子には絶頂が来た。自分でも恥ずかしいくらいに――さっきよりも早
い。その大波の中、慶子ははっきりとこう思った。
(――男は巧が一番だわ。息子だとしても――いや実の息子だからこそ…)
 母が女の最高点に達した瞬間、その可愛い声と淫らな表情にあわせて息子も爆発し
た。


 目覚めたのは恐らく翌日の朝だった。
「あ……」
 ようやく開いた慶子の目に天井のシャンデリアが映る。まだついている灯りが大き
な窓からの日の光によってぼやけて見えた。
(やだ、昨日はカーテン開けっぱなしだったのね)
 外から丸見えだった事に初めて気づいて慶子は一人赤面した。あの痴態が――今こ
うして思い出すだけでまたも酔ってしまいそうなあの二人だけの時間がむき出しに
なっていたのだ。3階だし、このホテルならわざわざ覗く者もいないだろうがやっぱ
り恥ずかしい。そしてその事にも気づかず、燃え狂っていた自分がもっと恥ずかし
かった。
(まさか――巧とあんなになるなんて……)
 昨夜の事を思い出して頬を染める慶子である。まったく夢のような時間であった。
 あまりの快楽に最後のほうは覚えていないが、たしかに慶子は息子の身体を食べ尽
くさんばかりに貪った。何度も何度も息子の肉棒を秘肉に飲み込み、また息子も負け
ずに前からも後ろからも――あらゆる角度と方法で母の裸体を責め続けたのだ。互い
に相手の身体の全てを舐めあい、息子が発射すれば母はすぐに口や手や、あるいは乳
房までも使って息子の肉棒を何度も勃起させ、母が失神すればその目が覚めるまで息
子が母の乳房を咥え、秘肉を舐め上げたのである。最後に意識が途絶えたのはいつで
あろうか。すでに朝日が部屋の中に差し込んでいたような気もするが……
 まさに獣のような一夜であった。今思い出しても自分があんな事をしたとは到底信
じられない。普通の母親と普通の息子だったはずなのに――近親相姦なんて一昨日ま
で想像もしていなかったのに。やはりこのホテルとそこの人達の空気にあたったせい
なのであろうか。
(…………)
 自分の疑問への答えも判らないままに慶子は顔を動かした。すぐそばによりそうよ
うに眠っている息子の寝顔が視界に入る。もちろん服は着ておらず、昨夜慶子が泣き
喘ぎながらしがみついた裸身は生まれたままにさらけだされていた。
「ママは大好きよ。巧。後悔なんかはしないわ――きっと」
 息子の可愛い寝顔に思わず慶子は囁いた。もっとも巧が目覚めても同じ事を言った
のかもしれない。
 くすりと小さく笑って慶子は巧の頭を自分の胸につける。むき出しの乳房が息子の
頬が触れた。少し強すぎたのかキスマークで花盛りの乳房が、それを昨夜たっぷりつ
けた息子の口にあたりでへしゃげる。もう少し力を入れたら完全にその口を柔らかい
塊がふさぐかもしれない―――慶子はそうしてみたい衝動にかられた。
 そんな息子の寝息以外音のない時間がどれだけたったであろうか――――そして、
ベットサイドに置いてある電話が鳴った。
「はい……じゃなかった。ええっと……“はろー”」
 純粋に邪魔に思えた電話をいやいや慶子は取る。でないと呼び出し音が終わりそう
になく、このままではその音で巧が起きてしまうからだ。
「ああ、慶子さん!」
 相手の声は支配人の美代子のものであった。慶子は思わず一昨日に百合から聞いた
話を思い出してしまう。このすました女性が若死にした弟の娘を産んだと言うあの話
を―――
(本当だとしたらすごいわよね……でも、私もいつかはそんな気になるのかしら?)
「船の修理が終わりました。イオカステ号は本日夕刻にはサイパンへ向けて出港しま
す」
 慶子の不思議な思いにはもちろん気づきもせず、美代子は早口で用件をまくしたて
た。少し以上にうるさいほどだ。その証拠に巧がうっすらと目を覚ましてしまった。
(ああん、もう!もう少し寝顔を楽しみたかったのにぃ――)
「お二人はその便に乗ってください。一昨日、申し上げたようにサイパンではAクラ
スのホテルを当方からお取りしますので――」
 目の開いた巧と至近距離で慶子は目が合った。巧は母の顔とその間にある乳房をぼ
んやりと見る。まだ完全に目が覚めてはないが、この非日常的な光景に驚いているわ
けではないところをみると昨日の事は憶えているらしい。
(当たり前よ。忘れたら許さないわ。ママにとっては最高の時間だったんだから――
あんなに虐めてくれちゃってさ!)
「代金のほうはご心配なく。当方で見させていただきますから」
 ふと巧はにっこり笑い――ゆっくりと慶子の乳房に口を寄せた。“あん!”と出そ
うになった声を慶子は急いでこらえる。しかし、電話中で母が声を出せないのを知っ
ている息子はわざと母の乳房への愛撫を開始した。
(こ、こいつぅ!ママが声を出せないのをわかっていて!)
「ですからこちらの島での件はどうぞご内密に―――って、あの聞いています?」
 ゆっくりと口で母の乳房を舐め上げる巧の悪戯めいた笑顔が悔しい慶子は反撃に出
た。開いている左手を息子の股間に伸ばしたのである。お互い全裸であるからすぐに
も目的の肉棒が掴め――そしてそれは予想以上に熱く硬くなっていた。
(す、すご…もうこれなの?)
 驚く慶子は思わずもう一度巧の顔を見なおす。視線が合うと息子は、はにかんだよ
うにまた微笑んだ。それが慶子にはとてもいとおしく見え――身体のどこかのスイッ
チが入る音がした。
「もしもーーし。すいません。お休みでしたか?あの――返事くらいはしてください
な」
 無言のまま慶子は両腿を開いた。その間の女の大事なところは――秘肉から肉襞ま
ですでに十分なまでに濡れている。本当にスイッチが入ったみたいで恥ずかしかっ
た。
 巧はそこまでわからないにせよ、母の行動の意味はわかる。無言で口を乳房から放
し、身体を母のふくよかな両腿の間に入れた。
「どうなさいました?ご希望どおり、この島から出れますのよ?」
「ここからは出ません。予定通り二週間ずっといます」
 慶子ははっきりと言った。受話器の向こう側で驚いたであろう気配が確かに伝わ
る。
「え?でも、ここは……その近親愛の島でして、慶子様はご趣味が合わないかったん
じゃあ――」
「もう良いんです。ここの皆様がなさっていることをもう悪く言うつもりはもうあり
ません」
 巧が慶子の上にかぶさる。母は女として息を飲む。そして息子の腰が力強く突き出
され、ぐにゅん!と音を立ててその硬く大きい肉棒が母の秘肉を貫いた。頭の先まで
突きぬけるような快感に慶子は声を出す事だけを何とか耐える。
「は、はあ…よろしんでしょうか。本当に?」
「はい。ですからここにいさせて下さい。私達母子をこのすばらしい島とホテルに」
 巧の腰がゆるやかに動き出す。その熱さと硬さはすぐにも母の裸体に昨夜の息子の
男らしさを思いださせた。秘肉からの痺れるような快感が熱く慶子に伝わっていく。
“早く電話を切らねば”と慶子は思った。そう早く――
(……二人っきりにならなくっちゃ―――)



[2001/01/03]

いつもの電車

224 名前: 名無し 投稿日: 02/11/17 21:52 ID:3ivYb7RV
いつもの様に いつもの時間 いつもの電車
2駅目で前のシートの乗客が降りたので珍しく座って通勤出来る事を嬉しく思って
出掛けに見た今日の占いの「ラッキーな日」という結果を思い出して一人ニヤついていた。
次の駅ではいつも楽しみにしているあの子が乗車してくる いつも見ているだけだ
がとても綺麗でスタイルも良く うっとりしてしまうのは多分私だけでは無いだろう。
来た来た。いつもこの車両、この入り口。ドア-から2つ目の席に座っていた私
の斜向かいに立った彼女は今時の高校生らしくミニスカートにブラウス、ジャケッ
ト、右肩からバックを下げて携帯を持ち 左手でポールをつかんでいた。
身長が170cm以上あるだろうか、結構遠目からも目を引き 足も長いのでミニス
カートが他の子よりも短く感じ、当然露出部分も多いので 見ているだけでも何かわくわくしてしまう。
いよいよ次の駅では大量の乗客が乗って来る、今日の私は悠々と座って彼女を見ながらの通勤だ。





225 名前: 名無し 投稿日: 02/11/17 21:53 ID:3ivYb7RV
駅についた。どやどやとおっさん連中3人が彼女を囲む、痴漢なのか、逃げる様に横にずれ
て彼女は私の前へ、そして今度は後ろからギュウギュウ押され、私の
そろえてあった足をまたぐ様に迫ってくる、
つり革にぶら下がる様に前に倒れ気味私の顔の前には長身の彼女のちょうど腰のあたり、足が私の座っているシートに
ぶつかり 膝から上体だけが押されて前に倒れているため スカートの裾が太股から前に離れて隙間が広がり 
つい覗きたくなる衝動に駆られる、電車が揺れるたびにスカートの裾と太股との間がもっと広がる
もうちょっと目線が低ければ見える、何と言っても 最近の女子高生の 足の付け根とスカートの裾が水平な位短い
制服には腹が立つ。ついつい座っている姿勢が悪くなる、気がつくと私の腰がだんだん前にずり出して、
両隣の人より座高が低くなっている私の足を踏まない様に私の靴の両脇に開いていた彼女の膝の間に私の膝が押入って彼女は足
のやり場に困っている様だった。
これはマズイと思い姿勢をとり直し また彼女の白くて柔らかそうな太股とじっと見つめていた。


226 名前: 名無し 投稿日: 02/11/17 21:55 ID:3ivYb7RV
すると 見えるはずの無い白いパンツがスカートの裾から見えた。
ハットして彼女の顔を見上げると 目を閉じて眉間にしわを寄せている 下を見る、やはりパンツが見えている
ドキドキしながら周りを見まわすと 私の両隣に座っている男達も彼女の股間に目が釘付けになっている
多分彼女の真後ろの男だろう、やはり痴漢だったのか いつもあの子を見つけると近付いてる顔ぶれのようだ。
もぞもぞとパンツが動く 私や周りが気づいているのも痴漢はわかっているはずだ
あそこを直に触っているのか、羨ましい、悔しい、でも見たい 肝心な所は見え無い 
くそっ! うごめくパンツと彼女の表情で想像するしかないのか。
すると今度はスカートの両脇が持ちあがりぎみになっている 多分スカートの後ろはまくられているに違いない、
前から見ている限りではセーラームーンのスカートのように サイドが腰骨のあたりまで持ちあがり真中だけが股間を隠している、
くそっ!!またもや肝心な所は見え無いじゃないか。
彼女の表情はやはり目を閉じ 眉間にしわを寄せている しかし薄く開いた唇がわずかに動き 



227 名前: 名無し 投稿日: 02/11/17 21:56 ID:3ivYb7RV
音こそ出ていないが「あっ、あっ」と でも言っているような動きをし始めているではないか
感じてるのか まさか、でも、心無し腰がうごめいてる そんな気もしないではないのは考えすぎだろうか。
どうやら痴漢は複数の様だ、相変わらずパンツはうごめき 手の数が増えたのかさっきよりズリ下がってきて
ゴツイ指が時たま見え隠れする、私のすぐ目の前30cm位の所でグチュグチュと彼女のあそこへ
入れているのであろう指の動きが音までも聞こえてくるような想像を掻き立てる、
想像だけで私は射精しそうな位で普段より格段と大きく勃起していた。
いつのまにか ブラウスの裾がズリ上がりおなかが少し見えていた、やはり後ろからおっぱいを
揉んでいるらしくブラウスのボタンがはちきれそうになってブジャーがズリ上がっているのが解り
その内では2つの手がグリグリと動いている。



228 名前: 名無し 投稿日: 02/11/17 21:58 ID:3ivYb7RV
私はといえば すっかり姿勢はずり下がり 彼女の足を広げるのを補助でもしているかの様に彼女の膝の間に
私の膝を突っ込んで 勃起した私の股間は思いっきりズボンを突き上げ そのまま彼女が腰を落せば
騎乗位になってしまうような体制で我を忘れて見入っていました。
相変わらず肝心な所は見えていなくて 自分でも知らず顔が彼女の股間に20cm位に近づい
ていたのを痴漢が可愛そうに思ってくれたのかどうなのか、目の前の彼女のスカートが突然ストンと落っこちて
白くて柔らかそうな丘にきれいに生えそろった毛の裾が濡れて糸を引いた状態で現れた。 
思わず一瞬顔を引いて周りを見回すと、前に立っていた痴漢と思われる数人が私を見て、
無言であごで合図をする様に彼女のあそこの部分を指しました。彼女の顔を見なおすと変わらず目を閉じたままで、
スカートを落したあとも又触りまくっている男達の手に感じているのか堪えているのかの表情、
私の両隣の人達も 目で「やっちゃえ」とでも言っているような合図、皆が味方なんだと思った瞬間、


229 名前: 名無し 投稿日: 02/11/17 22:00 ID:3ivYb7RV
触りたくてどーしようもなかったのを絶えていた私の気持ちが一気に爆発し、両手で彼女の腰を抱え引き寄せ、
嫌でも私の足をまたいだ状態の彼女の足は開き、その開いた股間に顔を突っ込んだ。 
むさぼる様にクリトリスに食いつき、舌で転がし、吸い込む。上目で見ると彼女の後ろの男が
両手でブラウスをズリ上げおっぱいを揉んでいる。私の目から見ると素っ裸状態であった。
もう止まらない 今更止めても痴漢や暴行と変わりない。いやそんな事すら考えなかった。
もう頭の中はやりたい一心。知らぬ間に自分のモノを引っ張り出ししごいている。絶えられない、
彼女の腰をつかんでいた手に力が入り自分の股間に引き寄せる。動かない、つり革をつかんでいる彼女は、
後ろから抱きつかれておっぱいを揉んでいる男にも引き下げられやっと手を離し、
両膝を私の腰の両脇に付きそのまま私のモノが彼女のなかへ入った。
その瞬間初めて彼女の声を聞いたような気がする。


230 名前: 名無し 投稿日: 02/11/17 22:02 ID:3ivYb7RV
目の前に白くて綺麗なおっぱいが、後ろから揉んでいた男は手を放し 私がしゃぶりつく。
まもなくその男か、他の人なのか「早くしろよ」と言われ私は無我夢中で腰を動かすと一瞬にして出してしまった。
私がイッタのを解ったのか その男は彼女の腰を引き上げるとほぼ同時に後ろから突っ込んだのだろう。
彼女はいやがる間もなく「ああっ」と又声をあげた 体制がバックからなので私の顔にしがみつく様に彼女の顔がくっついてきた。
思わず顔を舐めまわしキスを無理やりして舌を入れるといやがり顔をそむけた。
耳を舐めまわしい息を吸ったり吹いたり。もうやり放題になっていた。
多分、数分で数人が犯したと思う。これは集団強姦だ。
一般の街中で隣を歩いていた女の子にこんな事をしたら大変な騒ぎになり、
テレビでももちきりの事件であろう・・・
なのに、駅に着くと急いで彼女は制服をなおし、男達も知らぬ振りを
して散って行った。


231 名前: 名無し 投稿日: 02/11/17 22:03 ID:3ivYb7RV
数人の男達が彼女を追ったので私も後から着いて行くと どうやらさっきの一件で
彼女を「させ子」と思ったのか普段は痴漢じゃないのにやりそびれたのが悔しいらしく、
俺にもさせろよと言い寄っていた。彼女は無視をしてトイレに駆けこんだが
5人の勘違い男達は後を着いて入っていってしまった。
朝のラッシュ時の人が沢山いる中、女トイレに男が恥じらいもせずどやどやと入って行くにも係わらず
意外にも誰も不思議がらず 騒がれもせずに収まって行く。
私は自分でしたことも忘れ、彼女の心配とあの男達の非常識さにいらいらしながら待っていると、


232 名前: 名無し 投稿日: 02/11/17 22:04 ID:3ivYb7RV
5分ほどで1人、また2,3分で1人と全員出るのに10分位で事
が済んだ様子であった。
昨日までの憧れのあの子が、自分でしたのは嬉しいのだけれど、他の親父連中に多分電車の中も含めると
10人に犯された それを考えると何故かとても もう一度犯したくなった。
そしてまだ出てこない彼女がいるトイレに入って 洗面の鏡の前で洋服をなおしている彼女に近づきぎゅっと抱きついた・・・・
次の瞬間「ぎゃーー」と言う叫び声 「えっ、なぜ・・・」
5分後には数人の男に取り押さえられ・・・・・・・・・

哀しみの母乳

哀しみの母乳

ある日の夕方、大学生の俺はいつもは乗らない満員電車の中で身動きひとつとれずにいた。
『あ~、これが通勤電車か~。サラリーマンって、よくこんな電車に乗って通勤してるよな』
大学が終わって街に買い物に出かけた帰り、めったに乗らない満員電車の中で俺は心の中で愚痴っていた。



するとドアの付近で、明らかに他とは違う異様な雰囲気を放った一帯が目に入った。
『あっ、あいつらは!』
そこにいた数人の顔に見覚えがある! そう、ここらでは有名な痴漢グループだ!
前に見た時は、男達が電車を降りたあとに半裸状態の女性が床に泣き崩れていた。
あとでネットで調べたら、かなり悪質な痴漢グループということだ。
一人の女性を数人で取り囲み、さらにその周りには少し強面の男達が壁となって、少々一般の人に見つかっても
誰も注意できないような状況で好き勝手にするのが手口と書いてあった。

俺は満員電車で揉みくちゃになってる不満と少しの興味で、動けないながらも何とかその集団に近づいて、
その中で行われている状況を見ようと努力した。
『もう、誰か餌食にされてるのかな…』

なんとか男達の隙間から中の様子をうかがえる位置に来た時、女性の後姿を確認することが出来た。
既に行為は始まっている…
タイトなスカートを履いたむっちりとした女性のお尻を、男の指が食い込むように鷲掴みにしていた。
女性はその手から逃れようとするかのようにお尻をもそもそと左右に振っていたが、お尻の肉をがっしりと
掴んだ手は、決して離れることはなかった。おまけに女性の両手は左右の男達がそれぞれ押さえているようで、
ただお尻を振るしか逃れる術はないようである。

『何故、助けてって叫ばないんだろう?』
その疑問は、電車がガタンッと揺れて俺の位置がずれた時にわかった。
女性の上半身が斜め前から見える位置に…
すると女性が着ている白いブラウスのボタンが全て外され、その中の白いブラジャーが剥き出しになっていた。
『こいつら、電車の中でここまで…これじゃあ恥ずかしくて声だせないよな…』
そう思いながら少しづつ目線を上げてその女性の顔が目に入った時、俺は驚愕した…
見たこともないような困惑した表情を浮かべる、俺の母だったからだ… 母は十代で俺を生み、今は三十代後半にも関わらずスタイル抜群の自慢の母だった。
その母が今、俺の目の前で痴漢グループの餌食になろうとしている…助けなければ…
しかし何故か俺は一言も発せずにいた…

母は胸元を剥き出しにされて恥ずかしいのか、顔を真っ赤にしながらやめてと言わんばかりに首を左右に振っていた。
しかしどこからか伸びてきた手がブラジャーの下側に指をかけた時、もうこれ以上はと思ったのか今にも
口元が叫ぼうとしていた。
「い、いやぁぁぁぁ!」
そう叫ぼうとしたのであろう…しかし男が後から片手を母の顔に回して、その口元を塞いでしまった。
そしてブラジャーはいとも簡単にずり上げられ、ブラジャーの中で窮屈そうにしていた二つの膨らみが、
男達の目の前にぷるんっとその姿を現した。

幼いころに見た記憶のある母の胸…あの頃と少しも変わらず、むしろあの頃よりも大きく、しかし重力に逆らうように
つんっと突き出した母の両胸…その母の胸を鷲掴みにする男の手で、その弾力感までが俺に伝わってきた…
いろんなところから伸びてくる手…それぞれの手が母の胸を順序よく触っている。荒々しく揉みしだく右胸、
優しく乳首を摘まみあげる左胸…いつしか母の口元を押さえていた手は外されていたが、もう声は出せずに
必死に唇を噛みしめて耐えている母の表情がそこにあった。

後の男は、今度は母のタイトスカートのファスナーに指をかけた。ファスナーが下されると、それと同時にストンッと
スカートが床に落ちた。ストッキング姿の母…そのストッキングの腹の方から中に侵入しようとする男の手…。
ストッキング越しに、その手がパンティの中にまで入っていくのがはっきりとわかる。
今まで以上に首を左右に振り、足をしっかりと閉じようとする母…
ストッキング越しに母の恥丘の辺りで止まっている男の手の形が浮き出ている。その手はさらに強引に下方へ向かい、
とうとう男の指が母の秘部を捕らえた。それは突然体をビクッっと反応させた母の動きで俺は理解した。

すると今度は母の前にいた男が少し腰をかがめ、母の胸に顔を近づけた。そしてその口元からいやらしく伸びた舌が
母の乳首をまとわりつくように舐めまわした。やや陥没気味の母の乳首が、次第に乳首の形をしっかりと浮き出たせ、
まるで舐めて下さいと言わんばかりに男に向かって突起してきた。
『母さん、まさか知らない男に舐められて感じてるんじゃ…』
母の表情を確認した俺は、相変わらず唇を噛みしめている母の顔が目に映ったが、しかし俺には必死で声を
押さえようとしている風にしか見えなかった。

前の男はじっと母の顔の表情を見ながら乳首を舐めつづけ、母の股間を弄る男の手はその動きを一層激しくし、
それと同じように母も唇を噛みしめながら首を左右に激しく振っていた。
『やめろ! もうやめてくれ! 母さんが…母さんが…』
その時、母の動きが一瞬止まり、しかし遠くからでも少し痙攣しているのが確認できた。
後の男はニヤニヤしながら母の股間から手を抜き、そして周りの男達に見せびらかすようにその指を突き上げた。
その指は電車の窓から差し込む夕日に照らされ、濡れてキラキラと光っているのが俺からもよく見えた。
そして微かではあるが男の言うことが俺の耳にも届いた。
「この女、いきやがった!」 
プロフィール

えむわん

Author:えむわん
当サイトは、主に2ちゃんねるの萌えた体験談コピペスレより、
さらに萌えるコピペのみ厳選したサイトです。

ここに掲載されている体験談は、ほとんどが作者の妄想から生まれたものです。
実在の人物、事件とは関係ありません。

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